六.

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六.

「それはもう、時計とは人類にとってそれほどまでに壮大かつ重要なものということなのですよ。 さて、おわかり頂けたと思いますが、時計とは常に時代の先端技術を取り入れて作られるものであり、先端技術にはそれを担う専門の極めて高度な技術者が存在するものです。 当店で取り扱う商品は、全てその類希(たぐいまれ)なる技術者、世界的にも数える程しかいないと言われる至高の職人が一つ一つ仕上げた手作り品のみとなっておりましてね。 一つの時計を作り上げるのに長い時には三年かかることも御座いますし、その精度に至っては数千年に一秒のズレしか生じないとも言われております。 それに加えてこの洗練された卓越なるデザインですね。 もはや時計であることを超えた芸術作品と言っても過言では無い、この世界にただ一つだけの至高の逸品が、あなただけのものとなるのです。 それゆえにお値段としてはやはりこのような額になるのは、妥当では無いかと存じますね。 むしろ当店ではかなり勉強させて頂いて、本来の価値よりもかなりお安く提供して差し上げていると自負しておりまして、他では、世界中のどこへ行ってもこの価格で手に入れることは難しいかと存じますねぇ」 「そっかぁ……」 「さて、では実際にお手に取って、腕に巻かれてみてはいかがです? いやぁ、構いませんよ。 至高の芸術品であっても時計は時計。 使われるべき使われ方で、使われるべき御方に使われてこそ真価を発揮するというもの。 さ、では……」 店長がうやうやしげに、重厚な赤絨毯(  じゅうたん)敷きの木箱から取り出した腕時計を若者の腕にはめようとした、その時。
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