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十.
「くそ!セイタ!ニシキ!お前ら大丈夫か!?チビだし弱ぇし、首折れんじゃねぇのか!?」
「こ、このぐらい、な、なんてこと無いさ!僕の方が、ライより、足は強いと思うよ!」
「よよよ余計なお世話よ!あた、あたしだって、お、泳ぐぐらいできんのよ!」
「あぁ、そう……ならいいが……ヤシチ爺さんも問題無ぇか?」
と、首輪を引っ張られながらも沈むことも無く言い返す余裕のある二頭から、再びヤシチへと視線を移しながら、その時ライは何かの柱のような材木が流れ込んで来たのを目にし、
「爺さん!!」
叫んだものの、材木はヤシチに向かって一直線に突き進み、避けようと動かしたヤシチの足が滑り、ヤシチは水の中へと転がった。
「爺さん!?」
転んだおかげで材木の直撃は免れた様子だったが、しかし水の勢いに飲まれヤシチはふらつき立ち上がることができず、半身を水上に覗かせてはよろめくのを繰り返していた。
「おい!?頑張れよ!!立たねぇとマジで溺れんぞ!?くそ、鎖!なんなんだよもう!!」
ライが苛つき唸り声を上げる中、ふいにヤシチの姿が消えた。
「おい!?マジか!?」
「ヤシチ爺ちゃん!!」
「お爺ちゃん!!」
三頭が叫ぶと、しかしながら少しの間の後に水面にヤシチの顔が現れ、
「もう……ごぼっ……無理かも知れん……足がもたん……。やむを得んよ……自然の力には逆らえん……げほっ……。あるがままを受け入れ、身を委ねるだけじゃ……ごぼ……」
浮き沈みを繰り返していたが、
「落ち着けジジイ!!もうちょっと頑張れよ!!御主人様ももう帰って来るかも知れねぇぞ!!」
「御主人様……がふっ……最期にもう一度……頭を撫でて……欲しかったのぅ……。最期は……御主人様の腕の中と……がぼっ……決めておったのに……」
そう言い残してヤシチは濁流の中へと姿を消した。
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