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十一.
「え……ちょ……嘘でしょ……?お爺ちゃん……?」
「ヤシチ爺ちゃん!!駄目だよ!!頑張ってよ!!顔を出してよ!!そんなに潜ってたら本当に溺れちゃうよ!?爺ちゃん!!」
「くそ!!何なんだよ!!っざけんなよ!!」
三頭の叫び声もまた、虚しく潮の渦に飲まれて消えて行った。
「いやあぁあぁあっ!!お爺ちゃあぁん!!いやあぁあぁっ!!助けて!!御主人様!!いやよこんなの!!あたし死にたくない!!早く助けに来て!!いやよ!!いやっ!!」
「御主人様あぁあぁっ!!どこにいるんだよぉおぉっ!!怖いよぉ!!もういやだよぉ!!助けてよぉ!!うわぁぁあぁあっ!!」
二頭の小型犬が激しく取り乱して泣き叫び始めたのを、もはや止めることも無く、ライは時折水に顔を突っ込んでは鎖に咬み付くことを繰り返していた。
「ふざけやがって……!なんでこんなことに……!こいつが……こいつさえ外せれば……!っていうかこれはいつまで続くんだよ!?このままもう世界は海の底になっちまうのか!?」
「知らないわよ!!そんなことよりあたしを助けなさいよ!!こんなのもう嫌よ、限界よ!!あんたいっつも悪ぶって息巻いてんだから、こんな時ぐらい根性見せな……あぐっ……」
言葉の途中で突然ニシキの姿が水中に消えた。
「ニシキ!?」
「ニシキ!?うわぁあぁあっ!!」
残された二頭が必死の大声でその名を呼び続けていると、
「ぶはぁっ!!ちょ……助け……あぶっ……!!」
ふいにニシキが苦しそうに水上へと顔を出し、必死に手足をばたつかせている様子で、しかし再び沈み、また顔を出し、
「あ……がぼっ……鎖に……何かが……げほっ!た……すけ……く……るし……いた……い……ごぼっ……」
また沈んだ。
「ニシキ!?どうなってる!?ニシキ!!」
「ニシキぃ!!やめてくれよぉ!!出て来てくれよぉ!!怖いよぉ!!ニシキぃっ!!」
しかしどれだけ吠え続けても、ニシキはそのまま二度と浮かび上がっては来なかった。
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