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十四.
「くそ!くそ!!なんだってんだよ!!ほんのついさっきまでいつも通りに御主人様を待ってるだけのいつも通りのただの昼メシ時だったじゃねぇか!!それがなんでこんなことになってんだよ!!ヤシチ爺さん!!ニシキ!!セイタ!!なんでこんなことになってんだよ!!御主人様はどこで何やってんだよ!!くそ!くそぉおぉおっ!!」
だがその最大限の雄叫びも濁流の轟音に掻き消され、虚しさに打ちのめされたライは、そこで自身の手足がひどく冷えて痺れ、感覚が曖昧になってきていることに気が付いた。
俺ももう、これで、喰われてしまうのか。
それでも必死に泳ぎ続けようと、血が滲む程に歯を食いしばってもがくが、ついに水深は鎖の長さに追いつき、超え始め、水面に突き出した鼻先が浮き沈みを繰り返した。
「がぼっ……!ぐっ……くそ……ごぶっ……!こんな……くそ……が……がはっ……!なんで……こんな……」
なんで……こんな……御主人様は……俺は……。
目も開けていられぬ濁った潮水、腐った汚泥の臭い、逆らうこともできぬ激流、その中でライの意識は、少しずつ闇へと遠ざかった。
が、崩れた家屋の柱なのか、車や重機などの乗用物の一部なのか、それはもはや誰に認識することもかなわなかったが、兎に角、ふいに何か大きなものがライの沈んだ辺りに流れ込み、その先端に伸びた鉤状の金属が、ライを地面に留め続けていた杭の輪に引っ掛かり、勢いのままに一気に引き抜くと輪から外れて流れ去って行った。
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