二.

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二.

「メシ!まだかよ!?」 鎖の長さ目一杯にまで進み、地面に固く打たれ鎖を繋いでいる杭を中心に、半径三メートルをぐるぐると落ち着き無く回り続けているシェパードが、未だ現れぬ御主人様に向かって悪態をついた。 「ライはいっつもそればっかりだな!愛しい御主人様に会いたいとか、そういうのがもっと先に来ないものかい?あぁ、僕はもう駄目だ!御主人様が今すぐ帰って来ないと寂し死にしてしまうよ!」 同じく鎖の長さ目一杯にまで進み、広い庭の外へと必死に走り出そうとしては鎖の張力で飛び上がって戻されるのを繰り返す、白と茶色の体に黒いシャツを着たような柄が愛らしいウェルシュコーギーが、鼻を鳴らして訴えると、 「あんたたち、みっともないわね!少しは大人しく待てないの?もうすぐ帰ってくるわよ!あぁ、あたしがいちばんに抱き締めてもらうんだわ!その権利はいつだってこの今どき激カワ女子のあたしのものだもの!早く、早く、御主人様ぁ!」 左右対称に耳と顔の一部のみが黒い、整えられた毛並みも美しいパピヨンが、言葉とは裏腹に跳ね回り甲高い声で吠え立て、 「もうじきじゃよ……あと五分もすれば帰ってくるはずじゃ……」 いちばん奥で、伸ばした前足に(あご)を乗せ横になっている老いたラブラドールが、静かに皆を(いさ)めた。 「ヤシチ爺さん、さっきからそれ何回目だよ!歳食い過ぎて時間もわからなくなっちまったのか?」 「あぁ……そうかも知れんな……。じゃが、もうじきなのは間違いなかろう……」 「いいんだ!少しぐらい遅くてもいいんだ!そんなのはよくあることじゃないか!とにかく帰って来てくれさえすれば!」 「ほんとみんなうるさいっての!騒いだところでどうせ最初の抱っこはあたしのものなんだから!」 「お前も充分うるせぇんだよ、ニシキ!これだから小型犬ってのは鬱陶しいんだよ」 「ふん、あんたなんかさっきからぐるぐる回って、必死に泣き叫ぶのを我慢してるだけでしょ?いいのよ、泣いたって。『御主人様ぁ~早く帰ってきてぇ~』って言いたいんでしょ?」 「あぁ!?ぶっ殺すぞ、てめぇは!!」 振り返りざまに走り出しニシキへと飛びかかろうとするライだったが、鎖の長さは広い庭の中でそれぞれが届かないように調節されているため、伸び切った鎖に引き戻された勢いで首輪が喉元を締め付け、軽く咳き込んだ。 ニシキが鼻で笑い、その向こうで横たわるヤシチ爺さんがため息交じりに首を振って目を閉じた。
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