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四.
「早く早く!まだかなまだかな!もしかして今日は買い出しの日だったかな!そしたら僕らにも御馳走が出るかも知れないな!そしたらライも少しは大人しくなるかな!」
相変わらず必死に目一杯に鎖を張り、他の誰よりも門のそばへ近付こうと踏ん張りながら、セイタが声を上げる。
「っせぇな!……っていうかさぁ、前々からちょっと思ってたんだけどよぉ、御主人様って俺にいまいち優しくねぇ気がしねぇか?メシも足りねぇし散歩も足りねぇし。御馳走っつったってそれもいっつも足りてねぇよ」
飛びかかることもいったんやめ、ライは空腹に耐え兼ねる様子で眉間に皺を寄せ舌を伸ばすと、愚痴をこぼし始めた。
「そうか?ライが単に食い意地が張り過ぎなだけじゃないのかな。散歩だって毎日みんなでちゃんと行ってるじゃないか」
「お前らと俺とじゃ根本的な運動量が全然違ぇよ」
「わがまま言ってんじゃないわよ!あんたなんかたまに御主人様と一緒に釣り船に乗せてもらってるじゃない。いいわね、楽しいクルージングで御主人様も独占できて」
「ふざけんなよ、俺は船なんか全然好きじゃねぇっての!気持ち悪くて立ってもいらんねぇよ」
思い出しながら軽くえづいたライに、
「御主人様はちゃんと分け隔てなくみんなを可愛がってくれている……。儂は本当にあの御主人様の元で生きられて幸せじゃったわい……。御主人様に見守られながら逝くのが、儂の最後の夢かの……」
ヤシチが薄目を開けて遠い空の向こうを眺め始め、ライが「ジジイの気持ちなんか知ったことかっての……」とため息をついた、その時。
「わ……わわっ!?」
「なんだ?船の上みてぇに……揺れ……おぇ……気持ち悪……」
「ちょっと!地震じゃないの!?やだもう、御主人様はまだ!?」
「落ち着け……すぐ収まる……ぅ!?」
長く大きな揺れが数秒続いた後、突然に大地は立ってもいられないような、まるで巨人が地面を掴み上げて振り回しているかのような激震に襲われ、四頭は翻弄されるがままによろめきしゃがみ込み、あるいはそれでも必死に大地に足を踏ん張り、走り出そうと試み、しかしすぐに荒ぶる地面へと突き倒された。
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