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六.
その大きく丈夫な造りをした家屋は、倒壊こそしてはいなかったものの、ガラス窓は全て割れ、屋根の下地は剥き出しになり、ほとんどが剥がれ落ちた屋根瓦が地面に激しく散乱していた。
その向こう、ガラスを失った窓の内は、それこそ巨人が現れて大きな手で掻き回していったのかと思う程に、あらゆる家具が部屋中に吹き飛ばされて折り重なり、足の踏み場も無さそうな状態であった。
戸内から漏れ出すひどい埃とカビの臭いに顔をしかめながらも、ライはその奥に微かに火と焦げの臭いも感じ取った。
「くそ!何か燃えてやがんぞ!?御主人様は!?早く帰って来ねぇとやべぇんじゃねぇのか!?」
「やべぇんじゃねぇのか、じゃないよ!やべぇんだよ!超やばいんだよ!!御主人様はどこにいるんだ!?大丈夫なの!?ニシキ!?外は見える!?御主人様は見える!?」
「わからないわよ!!うるさいのよ!!こんな時に大きな声出さないで!!余計不安になるじゃないの!!」
「とりあえず家から離れろ……。家は仕方無い……また建てればいい……。ただとにかく御主人様が無事であればいいんじゃ……」
「あぁ、もう!この鎖さえ無けりゃ俺がぱっと御主人様を探して来てやんのに……!邪魔臭ぇな!」
相変わらずそれぞれに騒ぐ皆にライが苛つき、自分を杭に繋ぎ留めている鎖を咬むが、金属製の固い鎖には文字通りまるで歯が立たず、すぐに吐き出した。
そのことでなおさら気が荒れてきて、一時も静まること無くぎゃんぎゃん喚き続けているセイタとニシキの小型犬二頭に八つ当たりをしようと睨み付けたが、二頭はそれまでのように走ったり飛び跳ねたりなどしておらず、必死に踏ん張って立つその四肢が、全身が、未だ続く大地の揺れ以上に激しく震えているのが目に入った。
気を削がれたライは大きなため息と舌打ちを響かせ、こちらに向かっているのならば感じ取れるはずであろう御主人様の臭いを探し、空へ向かって鼻を突き上げ最大限にひくつかせた。
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