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駅まで走らねばならないが、どうにか間に合うかも。
そんな時間に家を出ることは出来た。
もちろん朝食は抜き出し、ネクタイだってまだしめていない。
何なら寝癖の処理も完ぺきでは無かった。
だが、とにもかくにも遅刻は不味かった。
朝一のミーティングに出なかったとなれば悪目立ちは避けられない。それをうまく切り抜ける劇的なアイデアも彼には思い浮かばなかった。天気は良いし、親族の不幸も特にない。電車が遅れているというニュースだってスマートフォンに流れてきてはいなかった。
「駅まで走るか……」
そう呟きながら玄関の鍵をかけようとして振り返り、彼はぎょっとした。
ドアに何やら紙切れが張り付けてあったのだ。
よれよれのチラシか何かを適当に破いたらしい紙切れには、一言「慌てるな」と書かれていた。文字は最後の方へ行くにつれてかすれていた。
「何だよこれ……」
紙切れを剥がしてくしゃくしゃに丸め、それをポケットに詰め込んだ。
不気味ではあったが、そんな事より遅刻がヤバいという思いが彼の心には強くあった。
鍵をかけた翔真は、そのまま駅へ向けて走り出した。
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