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改札へと向かう翔真の前に突如立ちはだかる人物が現れたのだ。
見るからに薄汚い初老の男だった。
髪はぼさぼさ、歯は黄色く、肌はどす黒い。
薄汚れた洋服に軽い異臭まで感じられた。
思わず立ち止まった翔真に向けて男は言った。
「慌てるな!!」
「はあ?」
「あの電車は諦めろ。後悔するぞ!!」
薄汚い人物は強い口調でそう言った。
「何言ってんだよ、遅刻しちまうだろ。どけよ。電車が来てるんだから」
男は翔真を通すものかと両手を広げて道を塞いでいる。他の乗客たちはそのやり取りを見て迷惑気な目を翔真に向けている。駅員も動き出そうとしていた。万が一駅員に取っ捕まれば遅刻は確実だ。この男との関係性も追及されるだろう。
「どいてくれよ!! 頼むよ!!」
翔真の懇願にも耳を貸さず、男はなおも言葉を続けようとしていた。
「ダメだ。今日は遅刻しろ、理由は……」
「ふっざけんな!! いいからどけぇっ!!」
翔真は大声をあげて、男を思いきり突き飛ばした。
男はたまらず数歩よろめき、そのままこけた。
それで出来たスペースを駆け抜け、改札を抜けてホームへと急ぐ。
「おい、止まれ!! 慌てるんじゃない!!」
後ろから飛んでくる男の声にはもう振り向きもしなかった。
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