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「それより視聴率が稼げるニュースがありますよ。巨リスが渋谷に行く途中の公園に出るんです」
「えっ?巨リスって?」
「人を食べるんです。この辺りで行方不明者が出るって聞いたことありません?巨リスが食べているんですよ」
女の人は目を大きくして驚く。言っちゃっていいのかな。張り紙を貼った人にバレたら怒られるかもしれない。
「眉唾ものですが、行ってみたいです。案内して貰えませんか?」
「いいですよ。でも板チョコクレープを食べ終わるまで待っていてください。暑いので溶けちゃって手に付きそうです」
美緒ちゃんはそう言ってニッコリ笑う。すれ違う人たちは一瞬テレビ局の人たちを凝視するが、すぐに表情を元に戻して道をあっちに行ったりこっちに来たりテレビ局を意識している。夏休みで田舎から出て来た人にはテレビ局がいることが新鮮なんだろう。
「ね、どこのテレビかな」
「私たちも映っちゃたりして」
ヒソヒソ話が聞こえる。僕と美緒ちゃんは原宿には何度も来ているし、家も都内なのでテレビ局にインタビューを頼まれてもなんとも思わない。
5分もするとクレープが食べ終わった。ゴミを通りの端にあったゴミ箱に捨てる。それを合図のように女の人がカメラマンに言う。
「これから巨リスがいるところに案内して貰うから、きちんとついてきて巨リスをカメラに収めて」
「分かりました」
カメラマンは頷く。
僕たちは公園に向かって歩く。もうすぐ12時だ。巨リスが出る時間だ。
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