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戸井田くんが久しぶりに尋ねる近藤くんの家はどこか寒々しい雰囲気を醸し出していた。久々に近藤くんの母親に会ったのだが、息子の登校拒否と向き合い疲れ切っているのか白髪も皺も増えていた。戸井田くんは力なくのっそりのっそりと歩く近藤くんの母親に導かれて近藤くんの部屋の前に立つ。
「幸春、戸井田くんが来てくれたわよ」
暫くの沈黙の後、近藤くんはドアを開けた。戸井田くんは久しぶりに見る近藤くんの顔を見て愕然とした。髪は伸び切りウェイブヘアーとなりフケがこびりつき、目は徹夜を続けているのか白目は赤く目元に隈も出来ておりどこか虚ろであった、服装はねずみ色のスウェット上下で肩にはフケがこびりついており「汚い」としか言いようがなかった、登校拒否故に学校に行かないどころではなく、外出自体をしていないことは一目瞭然だった。
「戸井田…… 何か用?」
話す声も活力がなかった。一緒に遊んでいたときはもう少しハキハキとハッキリ喋るやつだったのにどうしてこうなってしまったんだ…… あの二人のイジメが彼を変えてしまったのかと考えた戸井田くんは胸が痛くなるのであった。
「学校、来いよ。みんな待ってるぞ」
実際には待ってる人はいないのだが、学校に来てもいいと思わせる雰囲気を作るためにこう言わざるを得なかった。永江先生からも「こう言え」と念を押されていた。そして、鞄の中に入れていた寄せ書きの色紙を渡す。
「ほら、みんなだって心配してるんだぞ」
この色紙、永江先生がクラスのみんなに無理矢理書かせたものである。どうもあの先生は不登校の生徒に対する対処がどこかズレている。イジメを黙認するようなクズだからこの辺りの対応が出来ないのは当然か。戸井田くんは「貧乏くじを引かされた」と、今更になって引き受けたことを後悔するのであった。
近藤くんもそれは分かっているようで色紙を受け取るなりにポイと床に捨ててしまった。自分をイジメていた女子の名前も書いてあるだけに無理矢理感は100%、バレバレだ。そして、近藤くんは裸足で色紙をぐいぐいと踏みつけた。
このままじゃ学校に来させるのは無理だ。そう考えた戸井田くんはとりあえず登校拒否の話は置いといて近藤くんと遊ぶことにした。遊んでいるうちにそれとなく学校に来ることを促す作戦である。
「なぁ、一緒にゲームしないか? ゲームしがてら学校のことも話したいし」
戸井田くんは小学生の時はほぼ毎日近藤くんの家に来て二人でゲームをしていた。その関係は中学生になり近藤くんがイジメに遭う前まではずっと続けていたのだった。それが途切れた理由は「イジメに巻き込まれたくない」として、戸井田くんが自然に距離を取るようにしたのが原因である。
「……いいよ」
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