恨みの力は電子を超えて現実へと干渉する

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 戸井田くんは近藤くんの部屋に招かれた。部屋は典型的なお片付けの出来ない子供部屋、他と違うとするなら足の踏み場もないくらいに漫画本とゲームソフトの空箱が散乱していることぐらいであった。  ゲーム機が接続されたテレビ画面には競馬ゲームの画面が映し出されていた。戸井田くんはテレビの前にちょこんと座る。近藤くんもその横にのっそりと座った。 「ホント、競馬好きだな」 「うん……」  近藤くんは色々なゲームをするのだが、一番好きなのは馬主を体験(シミュレーション)出来る競馬ゲームであった。近藤くんは特に熱心で、競走馬の配合をノートに書き写したり、トレーニングによる体重変化とスピードやスタミナの増加、競走馬の適正体重の割り出し、など…… 競馬ゲームに人生を懸けてるのではないかと思うぐらいに真剣なものであった。 「相変わらず競馬好きだね。G1レースとか全部勝ったの?」 「うん……」 「G1全部勝ったらやることないよね? オンラインで他の人の馬とやりあってるの?」 「オンラインでも優勝したよ。全競馬場のレコード記録だしてる」 「凄いじゃないか。飽きない?」 「うん、やることないから飽きてたんだけど…… 新しい遊び方を考えてね。近頃はずっとこれで遊んでる」 「ふーん」 すると、近藤くんがスッと立ち上がった。 「トイレ」 「おう、行っトイレー」 近藤くんは部屋を出てトイレに向かった。このままぼーっと待っているのも暇だと思った戸井田くんは競馬ゲームの進捗を見ることにした。昔はあいつと一緒に競走馬いっぱい作ってたなぁ、懐かしいなぁと感慨に耽りながらコントローラーを握り、場面を厩舎から牧場へと移した。  のどかな牧場の画面が映し出された。記録室を見れば輝かしい記録、G1、G2、G3のトロフィーは全てコンプリート済、海外G1も勿論であった。あいつすごいなと思いながら記録室を後にすると、牧場の隅の方に二つの石碑が並んでいることに気がついた。 戸井田くんはこれはなんだろうと思いながら石碑にカーソルを合わせた。その瞬間、戸井田くんは全身に寒気を覚えた。 ササキユウジロウ 号 牡 3歳 32戦0勝 ササキユウジロウは佐々木くんの本名だ。佐々木雄二郎が彼の本名になる。どうしてこんな名前の競走馬が近藤くんの牧場で石碑になっているんだ。と、戸井田くんは疑問に思った。 そもそもこのゲームで石碑はどんな意味があったのだろうかと考える。 その答えは瞬時に出た。
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