あと10秒

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「先生、トイレ」 卓が立ち上がる。 西崎は眉をしかめながら頷く。 輝は卓が出て行った扉の上にかかっている壁時計を睨んだ。 輝だけではなく、クラスのみんなが時計を見上げていた。 その様を見て、西崎が笑う。 「みんなそんなに期待しているの?」 ーーーお前が一番期待してんだろうが。 思わず悪態をつきそうになる。 秒針が頂上に近づいてくる。 あと10秒。 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1 『皆さん、こんにちは』 校長の声が響く。 時間だ。 ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ 学校中に耳をつんざく冷たい音が鳴り響く。 「何?」 西崎が立ち上がる。 と同時に女子が机の下に隠れる。 男子が立ち上がり、引き出しから掌サイズの石を取り出し振りかぶる。 バリン バリン バリン バリン 次々に窓ガラスが割れていく。 「な、何してるの!!あなたたち!!」 西崎が悲鳴を上げる。 『火事です。火事です。火事です。火事です』 追い立てるように明彦の声がスピーカーから流れる。 『6年2組の教室が爆発しました。全員今すぐ校内から出て下さい。猛毒を含んだガスが発生、吸い込むと大変危険です。皆さん、窓から逃げて下さい』 校内中に悲鳴が響き渡る。 輝は割れたガラスの隙間から外を見た。1階の1年生も2階の4年生でさえ、パニックになって窓から飛び降りている。 「な、な、な、な…………」 何も言えずに立ちすくむ教師を32人(マイナス)1人の6年2組が取り囲む。 ガラッと扉を開けて、非常ベルを押してきた卓と、昼の放送を“無事”終えた明彦が入ってくる。 「じゃーん!!校長からくすねた模範学級に送られる賞状でーす!!」 ヒラヒラとA4の簡易的な賞状を振りながら明彦が笑う。 「今年度、模範学級に選ばれたのは!」 「ドロドロドロドロドロドロドロ ババン!!」卓もふざけて応戦する。 「6年5組でした~!」 「う、そ…………」 西塚がへなへなと座り込む。 「先生が去年まで副担任やってたクラスじゃね?」 明彦の言葉に全員で笑った。 「なに期待してんの。登校拒否の生徒がいるクラス、選ばれるわけないだろ!」 こんなに笑ったのは、藍がいなくなってから初めてだった。 わなわなと震える西崎を見下ろしながら笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭い、輝は言った。 「ところで、先生。処女って噂あんだけど、本当?」 涙目で見上げる西崎が弱く首を左右に振った。 「嘘ついちゃいけねーんですよ。…センセエ?」 16名の男子が、一歩、また一歩と西崎に近づく。 「確かめてやるよ、俺たちが」
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