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シューベルト作曲。ピアノ五重奏「ます」が、今日も優雅にかつ平穏に、校内に流れる。
『みなさん、こんにちは。お昼の放送を始めます。今日の担当は6年2組です』
放送が始まった。
今日の給食は、食パン、イチゴジャムとマーガリン。ジャガイモとベーコン、キャベツにブロッコリーそれと玉ねぎが入ったコンソメスープ。グリルチキンに、デザートはオレンジムースだ。
まだ湯気が漂うスープを口に含むと、森長輝は時計を睨んだ。
11時55分。
あと5分だ。
輝と同じく何食わぬ顔でパンを齧り、チキンに歯を立て、スープを啜るクラスメイトを見渡す。
何人かと目が合う。
そのたびに輝はわからないほど小さく頷いた。
「今日はみんな随分静かね」
この教室内で唯一の“大人”である、その女が笑う。
「無理もないか。今日は大事な発表がある日、ですもんね」
言いながらパンの上に、チューブ式のイチゴジャムとマーガリンを交互に出すと、スプーンで潰すように塗りたくった。
そのグチュグチュという音が、窓際に座る輝まで聞こえてきたのは幻聴だろうか。
いや、違う。
神経が限界まで研ぎ澄まされているのが、自分でもわかる。
この日のために綿密な計画を練ってきたんだ。
この日のために、何度も何度もシミュレーションを繰り返してきたんだ。
この日のためにーーーー。
歯を食いしばりながら、我慢をしてきたんだ。
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