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何の縁か1年生からクラスは同じだが、隣の席になるのはこれが初めてだった。
ショートカットに焼けた素肌。少しがに股の足は、ぜい肉が一切なく細くて長い。
出会った頃の彼女はピンク色の服さえ着ていなければ、どこから見ても男子だった。
女子と一緒にお絵かきやままごとなんかしているのを一度も見たことがない。
藍は見るたび、膝小僧に絆創膏を貼りながら、男子と駆け回っていた。
ジャングルジムのてっぺんからジャンプしたり、高く漕いだブランコから飛び降りたり、見ていてこっちがハラハラしてしまうようなことを簡単にやってのけては鼻を掻いて笑う藍のことが、恋愛感情は抜きにしても、輝は好きだった。
だが高学年にもなると、彼女はだんだん男子と遊ばなくなった。というより、少しずつ自分たちとの違いが出てきた藍を、男子の方が遠ざけていった。
輝もそのうちの一人だ。
藍の体の変化。それはいつも隣にいたからこそ、如実に伝わってきた。
あれは5年生の時のプールの時間。
女子の水着姿を見て、男子が騒ぎ始める年代だったが、輝自身は興味がなかった。
やっと膨らみ始めた同級生の小さなおっぱいを眺めるくらいなら、中学生の兄の部屋に忍び込んで使い古されたようなボロボロの雑誌を眺めていたほうが興奮した。
授業が終わってからの10分の自由時間。
一番泳ぐのが早いレーンで、25メートルクロールを10回も全力で泳ぎ切り、もう水につかるのも嫌になって、プールサイドに腰かけた輝の横に藍が座った。
「遊ばないの?」
「無駄に本気出して疲れた」
言うと「らしいね」と藍は太陽に照らされた顔で笑った。
「でも、そういう無駄に頑張っちゃう輝のこと、あたしは好きだよ」
「へっ」思わず視線を落とした。
「男に好かれても嬉しくねーんだよ」
「あ、言いやがったな」
藍も笑った。
照れ隠しに落とした視線の先には、藍の胸があった。
紺色の水着が、夏の暑い日差しを受け、急速に乾いていくのを輝は見つめた。
そこに確かに存在する、小さな膨らみ。鎖骨の中心にできた薄い影。
輝は梅雨明けした夏の太陽に照らされた頬を冷ますように、湿った水泳帽を顔に当てた。
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