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『今日の“献立の豆知識”は、ブロッコリーについてです』
3学期から放送委員になった明彦の澄ました声が全校に響く。
『アブラナ科の緑黄色野菜で、ビタミン、ミネラル、食物繊維などをバランスよく含んでいます。中でもビタミンCはキャベツの約4倍。レモンよりも多いんですよ。
花蕾が鮮やかな濃い緑色で、こんもりと丸みのあるものを選ぶとよいでしょう』
いつもかっこつけたような声を発しているが、放送ではアナウンサーのように妙に気取った話し方をしている。
しかし、彼がその声を一番聞いてもらいたいであろう、彼女はここにはいない。
「こんもりだって。いやらしい響きー」
クラスのムードメーカー、鈴木卓が椅子の上に立ち上がる。
「こんもり!」
言いながら下半身を突き出して見せる。
やだー。女子が笑う。
「こら、鈴木君。席につきなさい」
西崎が叱る。
「すみませーん」
卓が笑いながら椅子に座り直す。
西崎の視線が離れると、卓はこちらを見た。ちゃらけた顔が一瞬で真顔になる。
ーーーいいぞ。卓。いつも通りだ。
明彦の“豆知識”も、卓の“こんもり”もすべては作戦に殉じたセリフだった。
壁時計を見上げる。
あと3分だ。
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