0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
『足に関するお悩みのある方必見! 只今、新規登録受付中!!』
デスクトップパソコンでネットサーフィンをしていた俺の目に、ふとそんな見出しのバナー広告が目に止まった。
それは、俺にとっては実にタイムリーな話題であった。
野球部のレギュラーメンバーである俺は県大会を目前に控えて、練習中に足を捻挫してしまった。
治療に励んでいたが、医者からは試合に出ることは絶望的と言われてしまった。顧問からも、怪我を理由にレギュラーメンバーから外すと言われた。
──どうしても大会に出たい。
──何とか出来ないか……。
そう思って藁にも縋る気持ちで、インターネットで怪我を負いながらも野球ができる方法を検索していた。その折に、そんな広告が目に止まったのだ。
──どうせ、広告をクリックしたところで出会い系サイトに繋がったり、別のサイトに飛ばされたりするだけだろう。半信半疑であったが、タイムリー且つ俺が今まさに求めている情報であることには間違いなかった。
余り期待はせずに、俺は見出しのバナー広告にカーソルを合わせてクリックをした。
アイコンがクルクルと回って『loading……』の文字が画面に表示され、ページの読み込が始まる。
どれ程の容量の画面を読み込まされているのか、ロード中の進捗バーがなかなか進まず数十秒は待たされた。
そして、いよいよ表示された画面には、こんな文章が書かれていた。
『おめでとうございます! 抽選の結果、神様が貴方のお悩みを解決して下さることになりました。以下の中から足に関する能力を一つ選択して下さい』
「はぁ?」
思わず首を傾げてしまう。
突然、わけのわからないファンタジーな内容の文章が画面に表示されて困惑した。
──読み間違いだろうか?
何度か読み返してみたが、見間違いなどではない。
大真面目に、この文章には『神様』なんて綴られていた。──今時、誰が信じるというのか。
俺は落胆して溜め息を吐いた。
僅かな希望を持ってこのページを開いたのだが、どうやら茶化されてしまっただけらしい。
この捻挫をどうにしかしてくれる──大会に出られるかもしれない──と、期待値が上がっていただけに、落胆の度合いも大きくなっていた。
──しかしまぁ、『悩みを解決して下さる』という文言が心に止まったのも正直な感想である。
此処まで来たのだから──せっかくだから、このサイトを辿っていけばどこに終着するのか、見届けてやりたい気持ちも芽生えていた。
──どうせ、詐欺サイトにでも行き着くのだろう。
そうなったら、ブラウザを閉じてしまえば良い。
俺はカーソルを動かし、プッシュボタンを押して画面を進めた。
すると、ポップアップで『WARNING!』などという禍々しい文字が画面中央に表示された。
『この先、能力を一つ選択するまで画面が閉じられなくなります。ご了承頂ける方のみ、次へお進み下さい』
そんな忠告文が目に止まる。
──何をいっているんだ?
しかしまぁ、進むと決めたのだから構わない。
猪突猛進──俺はお構いなしに突き進むことにした。
「ええいっ! ままよ!」
鬼が出るか蛇が出るか──俺は運否天賦に『了承』ボタンをクリックして、画面を進めた。
ロード中のアイコンが表示され、次の画面が読み込まれる。
──そして、開いた画面にはそのいくつかの能力とやらが表示されていた。
◎履いた靴下が緩くなって、歩いていると徐々にズリ落ちる能力
◎靴下の中にゴミ(小石・枝)が混入してたまにチクチクと刺さる能力
◎足と靴の間に空気が入り、歩くたびにプカプカ音がする能力
◎履いた靴や靴下が、自分でも匂いを感じる程に臭くなる能力
◎雨天時に施設や店の床で低確率で、転ばない程度に滑る能力
◎意識して歩かないと低確率で足を撚る能力
ボタン式になっていて、そこから一つを選択できるようになっていた。
「何だよこれ……」
列挙された選択肢を見て、俺は愕然としてしまった。どれも酷い内容ばかりで僕が求めていたような能力は何一つない。
──騙された!
捻った足を治す方法を求めてこれを開いたのに、余りにも期待外れで落胆の具合も大きかった。
◎意識して歩かないと低確率で足を撚る能力
──これに至っては、現状をさらに悪化させそうな酷い内容である。
真剣に悩んでいて、このサイトを開いたのに──。
当たり前と言えば当たり前なのだが、弱みに付け込まれて弄ばれたことで頭にきてしまう。
悪ふざけにしても度が過ぎている。困っている人の心を弄ぶようなこの内容に、込み上げてくる怒りを抑えることができなくなる。
「ふざけんじゃねぇよっ!」
モニターに向かって俺は怒声を上げたものだ。
それでも虚しいだけで当然、怒りはおさまらない。
最初のコメントを投稿しよう!