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駅前の広場に辿り着くと、菜々は自転車から飛び降り、弾む声で礼を言った。
「世高先輩、今日も楽しかったです。いつもありがとうございます」
「俺の方こそ遅くまでありがとう。気をつけて帰りなよ」
素早く両手を振り、重そうな鞄を肩に掛けると賑やかな広場から繋がるエスカレーターを下っていく。
そのまま前だけ見ていればいいのに、と世高は思う。
案の定わざわざ振り返って「センパーイ」と笑いかけてくる。いつも恥ずかしくてまともな反応はできないが、最後まで楽しそうな後輩を見送ろうと、ささやかな笑みを浮かべる。
「おやすみなさーい!」
「わかったから。声でかいって」
菜々の姿が見えなくなると、額の汗を腕で拭い、今来た道に向かって自転車を反転させた。
彼は近所のアパートまでの間、菜々がこの後どう過ごしているのかぼんやり想像を巡らせながらペダルを漕いだ。
やっぱり今、駅に戻るべきなのかもしれない。
そう悩んだが、それが彼女にとって親切で喜ばしいことなのか、余計なお世話なのか判断がつかなかった。
そんな風に、少し前から菜々が実は終電を逃していると知りながら何もできず、ただ複雑な気持ちを持て余していた。
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