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世高と菜々が親しくなったのは、同じ高校の出身だと知ったことがきっかけだった。それだけのよしみだが、なんとなく同郷の感覚で大学で出くわすたびに短い会話をするようになった。
「世高先輩が高校の時、写真部だったの知ってます。体育館を借りて写真展をやっていましたよね。私、見に行きました」
「へえ、なんか嬉しいね。俺、写真下手くそだったけど楽しかったな」
それは世高にとって高校時代の一番の思い出だった。
少ない部員で企画を通すために校長にまで申し入れたり、週末は朝から晩まで現像したりパネルを準備した。学校中の生徒が見に来た時の感動は、大学の部活でも写真を続ける原動力になっている。
「あの時、私たぶん来場者ノートに何か書いたと思います」
「そうなの。たぶんまだ家にあるから探してみるよ」
そんな思い出話から当時を振り返って悦に浸ろうと、世高は自宅の物置から来場者ノートを引っ張り出した。
数冊目で菜々の名前が見つかった。手短だが「どれも美しい写真でした。私もこんな景色を見てみたいと思いました。来てよかったです。これからもずっと応援しています」と丁寧な字で書かれていた。
まるで化石を発掘したような気分で、世高はそのページをずっと眺めた。
自分がその頃に美しいと思ったものを知る人に出会えたことが尊く、素直に嬉しかった。
そんな貴重な縁を磨くように、彼は時折菜々を食事に誘うようになった。
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