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とはいえ、菜々の不可解な行動を知ってから、世高はしばらく会うのを控えることにした。
部活やバイトに忙しいのもあったが、理由は分からずとも、彼女が終電を逃すのは自分にも非があると思ったからだ。
久し振りに菜々を見かけたのは、昼休み明けの食堂だった。朝から部室で作業をしていた世高は、少し遅い昼食に訪れた。
人の少ない飲食スペースで盛り上がっている集まりの中に菜々はいた。
「なにこれ、すごいね」
突然現れた世高を見て「こんなことある?」と女子たちはますます興奮して、菜々の頭を撫でたりした。
「明日、菜々の誕生日なんでお祝いしてるんです」
「そうなの?知らなかったよ」
ホールケーキを思い思いにスプーンで掬って食べている最中だった。形は崩れているが、真ん中には2と0の蝋燭が刺さっていた。
「もし世高先輩が来たら写真撮ってもらいたいねって話してたんです。ね、菜々」
急ごしらえの作り話を振られた菜々は、生クリームの付いた口元に手を当てて、とにかく頷いた。
「ほら、菜々、携帯出して」
急いでポケットに手を入れて「先輩、お願いしてもいいですか」と、緊張混じりの笑顔で世高に携帯を手渡す。
菜々は両手で20を作ると笑顔の前に構えた。
祝福のムードも手伝ってか、画面に映る彼女が幸せそうに見え、世高は惜しいことをしたと思った。
「こんなことなら部室からカメラ持って来ればよかった。可愛い菜々を撮りそびれるなんて」
冗談まじりにそう言うと、画面の菜々は照れて目を細めた。周りの女子もその様子を見て持て囃した。
「はい、いくよ。チーズ」
シャッターを切った世高は、菜々の写真を眺めながら少し考え、提案した。
「ねえ菜々、今日の夜、空いてない?」
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