そのペダルを漕いで跨げば

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 2人はいつもの洋食屋で待ち合わせた。  店に遅れて到着した世高は、窓際の席で外を眺める菜々を見つけた。どことなく緊張しているように見えた。  席に着くなり彼はメニューを広げて「さあ」と目を大きく開いて菜々に笑いかけた。 「今日は俺がご馳走するよ」 「そんな、いつもご馳走してもらってるじゃないですか」  そう言いながらも菜々は嬉しそうに大好きなパスタのページを開いた。今日の気分と相談しながらソースを考えている。 「菜々が誕生日って分かってたら、もう少し前もって準備できたのにな」  本心で話したが、菜々は「またまた」とはぐらかしてさっさと店員を呼ぶとカルボナーラを注文した。 「それでいいの?いつもと一緒じゃん」 「いいんです、いつもと一緒で。10代最後のカルボナーラです」  そう言ってはにかみながら髪を直す仕草は、彼女の素直な性格を表しているようで世高は好きだった。  グラスの水で乾杯して、いつものように2人は高校時代の担任の話や、近くの海でよく遊んだ話をした。 「もしかしたらすれ違ってたかもね」 「そうですね、もっと早く話しかければ良かったです」  もし、もっと前から彼女と知り合っていたらどうなっていただろうかと世高は想像した。
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