そのペダルを漕いで跨げば

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 デザートにティラミスと珈琲を頼み、2人は他愛もない話をひとしきり繰り広げた。 「じゃあそろそろ帰ろうか」  世高はいつもより少し早く切り上げようと伝票を手に取った。菜々は時間を確認して「あれ?」と不思議そうにした。  これで終電に間に合うと安心しながら、世高は会計を済ませて戻ってきたが、菜々は肩肘をついて、帰り支度もせず外を眺めている。 「菜々?帰ろうよ。荷物持とうか?」  彼女が空いた席に置いた鞄を手に取った。 「ねえ、いつもこんなに何入ってんの?」  菜々は「先輩、それは触ってはいけないパンドラの鞄」と強引に取り返した。 「中身、聞きたい」 「嫌です」 「だーめ、教えて」  世高が食い下がると、菜々は一度立ち上がった席にかけなおした。 「どうしても言わなくちゃダメですか?」  世高は鞄を抱き締めて見上げてくる菜々にため息をつき「いや、話したくないならいいよ」と取り下げた。  菜々は慌てて言った。 「実は1泊分の着替えが入っています」
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