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「私は、母から文子さんが亡くなったと聞かされたときひどく後悔しました。出征の前日、文子さんの泣き声を背中に感じながら帰ったこと。見送りの時の泣きはらした目を思い出してはこんなことなら一日でも結婚したかったと思いました」
「私が死の間際、絶望の中で少しの希望が持てたのはあなたが“もし生まれ変わったら、私と結婚してくれませんか?”と言ってくれたからです。帰って来れたら…という言葉だったら死んでも死にきれなかった。だから、ありがとうございます」
「自分の…言葉選びで最期の文子さんが救われたなら私も本望です。私が帰ってきた翌月、明も帰ってきてそのうち嫁さんをもらいました。賢一は持ち物しか帰って来なかったけど…これが文子さんの家族のことで私が知っている全てです」
明は二番目の兄で、賢一は一番目の兄で正一さんと同じ歳だった。
明兄さんだけでも帰って来れて良かった。
心からそう思えた。
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