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第一章
愛は私を裏切るけれど、お金は裏切らない。
「あなたが悪いんだよ?アタシにあの人を渡さないから」
「…」
悪魔のような囁きは、私のすべてを奪っていった。その女は、私の彼氏を奪い、家族を奪い、居場所も何もかもを奪った。一番に愛してくれていたはずの家族は、権力者の娘だと知るや否や手のひらを返して、私を詰り。
一人で暮らしていたアパートは大家さんに追い出されて、仕事先は解雇された。突然のことに労基に駆け込んでも相手にしてもらえなくて。現実の冷たさを知った。
「じゃあね、オマヌケさんっ」
語尾を上げて囁いた女は、惨めったらしく呆然と立っている私を、怖がるふりをして男に殴らせて外へ放り出した。まだいろいろと状況が整理できなくて、ただ誰からも捨てられたことしか理解できなくて。道を歩けばヒソヒソとささやかれて顔をしかめられる。見知らぬ人に罵られても、急に殴りつけられても、誰も助けてなんてくれない。むしろ私のそんな姿を笑うだけだった。
偶然持っていたわずかな所持金を頼りに行けるだけの場所へ行くための切符を買って移動した。この周辺に働ける場所も住む場所もないことは、やけに冷静になっている頭から嫌でも理解ができた。
さむい、冬の日だった。
薄いコート一枚で寒さをしのぎ、少しでも暖を採ろうと、路地裏の自販機の横に腰を下ろして耐える。お腹だって空いているけれど、食べるものがない。盗みは絶対にしたくなくて、空腹も、夜になるまで耐えた。夜になったらこの繁華街の一番大きなキャバクラに働かせてくれと言おうと思っている。
悲しみも、辛さも、今はなぜか感じられない。生きることが最優先事項だから、だから今は感じられないだけだと思うことにした。痛む胸に、そっと蓋をして。
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