第二章

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私がキッチンに入ると、テレビはつけっぱなしにして都築さんがやってきた。私が一人にならないように、との配慮だ。 「お皿、出しておくね」 「はい、ありがとうございます」 「あ、ハムエッグ。美味しそう」 他愛のない話をしながら、ときにニュースを見ながら、止まることなく準備をし。 すぐに匡将さん、西野さん、下の階の島沖さん、小倉さん、多田さんも揃い。各自で主食を選んだら挨拶をして食べ始めた。朝はやはり時間がないのか、出勤予定者はほぼ、同じタイミングで食べ終わって食器をシンクにおいて慌ただしく食卓を離れる。そして身支度を整えて素早く出ていった。 そんな彼らを見送った私は、動物病院に行くみあと都築さんも見送って。小倉さんと二人でのんびりとソファーに座っていた。なにせ、この家は広いくせにとってもきれい。 掃除を毎日する必要があると言えるのはお風呂場くらいだけど、各居室にお風呂も設置されているため、共用のものや場所はあんまり汚れない。私の今まで生きてきた世界とは全く違う環境過ぎて、いまだに怖い。 「ね、おひいさん。ちょっと聞きたいんすけど」 「はい、小倉さん」 漬け置きした食器を洗っていると、それを手伝ってくれる小倉さんは質問があると言う。なんだろう、嫌いだとか、言われちゃうのかな、なんて不安になる。 「組長と出会ったときのことを、掘り返すようで悪いけど。おひいさんは、どうしてこの街に来たんすか?ほかにも周辺ならいくつも候補はあるっすけど、なんでここを選んだのか、気になって」 「どこか、遠くに、私を知らない人しかいない場所へ行きたかったんです。本当なら関東圏じゃなくて関西圏、ううん、北海道でも九州でも、沖縄でもどこでもよかった…あの場所から、逃げられるのなら…」 だけど、お金がなかった。 「地元の権力者に誰も逆らえない、でも周囲からすればそもそも、私は悪者で。気がつけば、私は誰かの幸せを壊すような、最低な人間のレッテルが貼られていました。それが普通に考えたらやっちゃいけないことだと、彼らは認識していなかった」 こちらへ来る三か月ほど前だった。普段使用している口座が凍結されたのか、カードも通帳もATMに何度通しても入金以外の意味をなさなくなった。偶然、毎月決まった生活費を引き出して、あとは貯金にするだけだったから、そのまとまった生活費が手元にあったことで二か月間はなんとか過ごせた。 「だって、悪い人間を懲らしめるだけだから。悪人を懲らしめる、正当な理由が、彼らには存在していた」 だけど、一か月で、お金が足りなくなった。ううん、持っていた口座は全て凍結されていて、家賃は滞納になって。大家さんと物件を管理する会社からはすぐに連絡がきた。もちろん水道も、電気も、ガスも、何もかもが止まってしまって。
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