第二章

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小倉視点 まだおひいさんに出会って一週間ほどだけど、彼女とはずいぶん打ち解けた。俺たちは元々、男同士の集まりにしては一緒に行動することが多くて。そもそも、俺と多田は25歳で、組長たちは32歳。 同級生同士の組長たちはとても器の広い大人の集まりだし、互いを信頼し合っていて仲がいい。人間としても尊敬できる、そんな憧れともいえる組長たちに俺も多田もすごく可愛がってもらえている。 おひいさんは22歳、俺と多田より3歳下。組長たちとは10歳も違う、おひいさん。このマンションにいる誰と比べても年が下。俺も多田も初めてやってきた年下のおひいさんがすぐに家族的な意味で、大好きになった。組長たちよりも年齢が近いから余計に打ち解けるのは早かった。 「都築さん、俺たち…。おひいさんの過去を本人から聞く前に書類で見たじゃないですか…」 「うん、ひどかった」 おひいさんが先日誘拐されたときは、彼女の過去は彼女から直接聞くことにこだわっていた。だけど、結局、おひいさんを苦しめた女とその家に報復するのに調べ上げた過去を知る決意をした。 「俺、書類で見たから、あんま想像できなくて…。あんな、あんな…」 彼女がなんでこの街を選んだかは書類だけじゃ、わからない。だから、なんでだろうって思って軽い気持ちで聞いて、彼女の送った苦しい生活を、知ってしまった。 「同じ日本に住んでて、同じ人間なのに!!彼女は地獄といっても過言じゃないくらいの環境で生きて。俺、今どきの日本でそんなことがあるって、書類上で知ってても想像ができなかったんです」 「小倉…っ」 「町ぐるみで正義に酔ったやつらにひどい目に遭わされて、それでもたった一人で状況改善を試みて。ゴミを漁って食べ物を探して、どうしても食べるものがないからって土を食べたって」 ゴミを漁り食べ物を探していたのも、土を食べていたのも、書類にはなかった。彼女がいろんなところと戦って、権力に負けた奴らによって苦しめられたことしか書かれてなくて。 それだけでも最低だって、そう思ってたのに。 生活に非常に困窮していたのは、御堂さんが実際に彼女を診察したことで証明されていた。彼女が嘘をついていないことも、あの女が秘密裏に撮っていた動画でわかっていた。 その動画には、ゴミ漁りも土を食べるところも存在してなかったけど。 「それ、本当なの」 「はい、おひいさんが…、言ってました。実は昨夜、西野さんからこの機械を預かってまして…。勝手にするのは心苦しかったんですけど、彼女と話をする前にボタンを押して録音したんです」 「これ、組長たちと聞いても?」 「お願いします。俺、聞いただけでこんななっちゃって…」 情けないことに、おひいさんの話を聞いて泣いてしまった。かろうじてできたのは、簡単に慰めの言葉を言わないことで。いうなれば、それしかできなかった。 おひいさんは今、みあといっしょにお昼寝中で、ぐっすりと寝入っているのは確認済み。その間にコソコソと都築さんと話をした。
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