第二章

29/33
前へ
/136ページ
次へ
都築さんの連絡で定時に上がって帰ってきた組長たち。御堂さんは今日も急患だと言っていたから、来るのは状況が安定してかららしい。 島沖さんも、追加で調べたらしい資料を持って集合した。どうしても仕事の話し合いがあると西野さんがおひいさんに言ったことで、気を利かせてくれたおひいさんはお風呂にみあと入りに行った。 当事者である彼女に秘密で録音した話を、すぐに再生させて全員で資料を見ながら聞いた。 結果、見事に全員がボロボロに精神をやられた。組長たちの本来の仕事である裏社会の関係で、常人であれば見る機会のないことを経験している俺たちが。俺に至っては二回目の号泣だけど。 「土…?ゴミを漁る…?」 「私たちの存在そのものがアウトだから、私たちが法律云々いうのはアレだけど。普通に警察案件では…?」 「どんだけ権力握ってるんだかねぇ、コイツら」 「権力に屈し金に目が眩んだやつらも、正義気取りで加担したやつらも、助けを求められて味方をしなかったやつらも、いかなる理由があろうと同罪だ」 土を食べて、ゴミを漁るという話のあたりで魂が抜けた多田。常識どころか法律的に問題が、と絶句する西野さん。完全に自分たちを王様だと勘違いしているあの女たちに呆れかえっている島沖さん。組長は怒りで拳が震えている。 「きっと、彼女は…、これから先もこの話はしないと思います。俺の、勝手な想像ですけど…」 ずっと、思っていた。 彼女は気が向いたのか、今日は話してくれただけ。たぶん、これから先、何も言わない。 「日和は、あの時も俺たちに助けてとは、言わなかったね」 「そうだな、都築。外から見ていただけだったけど、日和さんは…。きっと、あの日、みあを助けてほしかったから、組長の手を取った」 俺も多田も島沖さんも、御堂さんだって、出会った日のことは知らない。直接やり取りをして、あの日、おひいさんが組長の手を取った日。その時に何があったのかを全部知っていると言えるのは、組長一人だけだ。 警備の問題で、車を近くに止めて組長の側で物陰に隠れていたらしい、都築さんと西野さん。 「そうじゃなかったら、みあが、いなかったら…。日和は…」 みあがいたから、生きてほしいと願える存在がいたから、おひいさんは生きることを選んだ。差し伸べられた、組長の手を取った。ただそれだけなんだ。 みあがいなかったら、日和は死んでいたんだ。 たったひとりで。 視点終了
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3111人が本棚に入れています
本棚に追加