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「ここ、どこなのかな…。とりあえず、顔を洗いたいんだけど…」
私は寝かされていた場所から移動し、洗面所を探していた。要するに、部屋の中で迷子になってしまったのだ。ここは広すぎて、どこがどうなっているのかさっぱりわからない。タワーマンションとはいえ、ただのマンションのはずなのに、円形になってるってどうゆうことよ。
「ここって、玄関…?」
やがてたどり着いたその場所は、私が連れてこられて最初に入った場所。そう、玄関だ。ここを出れば、外に行ける…?
「ううん、ダメね。みあに会いたいもの…。それに、私はあの人のものだから…」
玄関へ吸い寄せられそうになるけれど、頭を振った。惑わされちゃいけない、私はもう私のものではないのだ。
「日和さん!!」
「に、しの、さん?」
「どちらへ?」
「あ、あの、洗面所に、行きたかったんですが…、その、迷子に…」
「そうでしたか、安心いたしました。洗面所はこちらです」
「すみません…」
わざわざ探してくれていたらしい西野さん。その彼に連れられて洗面所へ案内してもらった。彼は外にいると言って、洗面所の扉を閉めて待機してくれている。西野さんが最初に渡してくれたタオルで顔を拭いていると、突然、扉が開いた。
「日和」
「っ!?あ、ただ、まささ、ん」
ぎゅっと急に抱きしめられて、その腕の力強さに泣きそうになる。あれほど冷たい圧力と雰囲気でも、腕は優しいんだと知ってしまった。彼が何をしたいんだとかは理解できないけれど、それでもこの腕の温かさは、優しさを持ち合わせているのと同じ。
「勝手に、いなくなるな」
「すみません、その…、洗面所に行きたくて…」
そう言うと、彼は抱きしめていた腕をのけて、私の頭を優しく撫でた。殴られる、と思って咄嗟に目をつむったが、痛みがなかったから驚いたのは言うまでもない。
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