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帰 省
世間は帰省ラッシュで、空港や高速道路は軒並みぎゅうぎゅう詰めになり、日本中を大移動する。
年がら夏休みの大学生である僕だったけど、それも今年で最後の年になる。就職も無事に目処が付きそうなので、この日はニッポンの恒例行事に倣って僕も大移動の一員になることにした。
とはいえ移動は単車だから渋滞なんぞお構いなし。鬼の大渋滞で後ろはもちろん前にも動けない車を横目に高速道路をスイスイ進む。恨めしそうに見るドライバーもいるけど……、その分こっちは灼熱の太陽にさらされて消耗は激しい。イライラとギラギラ、どっちを取るかの違いなのであまり恨めしく思わないでと思いながら――。
高速道路をおりて農村の緑に体感温度を下げてもらいながら向かった先は田舎に住む祖父母の家。
子供の頃は親と一緒に毎年この時期は帰っていたが、僕もきょうだいも大人になり、ここ数年は戻ってなかった。
単車という自分の足を手に入れて、学生でいられる最後の年だから、自分の足で訪ねることにした。
懐かしい風景に心を子供に還らせているうちに大きな旧家に到着。単車を止めてヘルメットを外し、お勝手ではなく、正面玄関の引き戸を引いて、若者らしく孫らしく、大きな声で無事の帰省を知らせた。
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