1 見知らぬ公園、知らない君たち

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1 見知らぬ公園、知らない君たち

 目を()ますと、僕はベンチに座っていた。  ベンチに座ったまま辺りを見回すと、数多くの木々の枝が風で揺らぎ、音をすり鳴らし、すべり台の付近で遊ぶ子供達。  その他にはシーソーやブランコなどの遊具(ゆうぐ)設置(せっち)されていた。  ここは、公園らしき場所だと解った。  解ったが…。  ここは、自分にとって見知(みし)らぬ場所。  そして、なぜ、この場所にいるのか解らなかった。  強い日の光が照らし、おのずと(ひたい)から汗が浮かぶほどの気温。ミンミンゼミがその名の通りに鳴き散らしていた。  それらの事象(じしょう)で季節は“夏”だと(しめ)し、果てしなく青い空が広がっていた。  ここが何処なのか判らないので、不安が心を(おお)い、自分もセミの様に思わず泣きたくなりそうになった。  その時、自分と同じ年頃の子供……タンクトップの服を来た短髪の少年が近づいてきて、声をかけてきた。 「おーい、どうしたん?」  泣きそうな表情を浮かべていた自分を見かねて声をかけてくれたのだろうか。続けてショートヘアの少女が話しんけてきた。 「見かけない子だよね。 どっから来たの? 見た所、私達と同じくらいだよね?」  話しかけてきた二人の後ろに、メガネをかけて、なぜか使い捨てカメラを持っている男の子。そして麦わら帽子を被ったロングヘアーの女の子がこちらの様子を伺っていた。 「え、あ、その……。 ここは何処なの?」  とりあえず(たず)ねてみた。 「どこって…? 伊河自然公園(いかわしぜんこうえん)という所だけど?」  ショートカットの女の子が首を傾げながら答えた公園の名は、やっぱり覚えの無い名の公園名だった。 「いかわ、しぜんこうえん?」 「そう。伊河自然公園」  もう一度、辺りを見回し、何か身に覚えがあるものを探し、必死に思い出そうとしたが――やっぱり、この公園に見覚えがなかった。  おそらく、今日、初めてこの場所に来たのではないかと結論(けつろん)づけた。 「なんだ、さっきからボーとして。 ところで何しているんだよ。遊び相手がいないのか? それだったら、オレ達と遊ぼうぜ」 「そうよ。一人でいないで、私達と遊びましょうよ!」  短髪の少年の(さそ)いと共に、ショートカットの女の子は自分の手を取り、ぐいっと強引に引っ張った。 「あ、ちょっと…」 「ねぇ、君。 名前はなんて言うの? どっから来たのよ? ああ、私の名前はね、加賀元美(かが もとみ)。北立石小学校(きたいししょうがっこう)の2年生よ。みんなから、ガンちゃんって言われているわ。本当は、ちょっと嫌なんだけどね。で、あれがキョロ」  <ガンちゃん>というショートカットの女の子は、タンクトップの少年に人差し指を向けた。 「本名は多田野京介(ただのきょうすけ)って言うんだけど。ガンちゃんにキョロって名付けられたん……」  キョロの話しが言い終わらぬ内に、ガンちゃんは他の子の紹介をする。 「それで、麦わら帽子をかぶっているのがアヤヤで、メガネの子はユウ。みんな私と同じ同級生(どうきゅうせい)よ」  麦わらの少女<アヤヤ>は軽くお辞儀し、メガネの子<ユウ>は使い捨てカメラを持った手を挙げた。 「それで、あなたの名前?」 「僕の名前は……」  自分の名前を言おうとしたが、自分の名前を言えなかった。  それは、この公園がどこの場所なのかが解らないように、自分の名前が解らなかったからだ。  ダメ元で(たず)ねた。 「ねぇ、君たち……。僕の名前を、知らないよね?」 「「「「はぁ?」」」」  ガンちゃん、キョロ、アヤヤ、ユウ、そして僕の五人は呆気(あっけ)に取られて、素っ頓狂(とんきょん)な声をあげては目が点になっていた。
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