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第一章
「いーずみっ!!一緒に帰ろう?」
「うん、奏」
私は原田静、一般家庭出身の本当に平凡な大学生だ。私に声をかけてきたのは藤堂奏、入学式で出会って以来の親友で、すでに既婚者。奏は私とは違って名家出身で政略結婚だと悲しそうな目で話をしてくれたのをよく覚えている。
そして、私たちに共通する点、それは虐待を受けていることだ。
私は親族の誰も持っていない緑の目が気味悪いという理由、奏は長子で長女という理由とアルビノだったという理由から本当の家族に虐げられていた。まだ奏は無視をされて育ったりと暴力は少なかったらしい。私は、毎日が暴力で、ある日から右目と右耳、視力と聴力を失った。助けてくれる人なんていなくて、そんなときに出会った私たちはいつも一緒だった。
「奏、今日も一条家なの?」
「うん…、あの方は…その、毎日お忙しい方のようだから…」
「奏…」
奏の旧姓は一条、一条と言えばすぐに思い浮かぶほどの大きな財閥である。奏はもう結婚しているのだから結婚相手と暮らしていると思うだろう。実は同棲とまではいっていないらしく、こうして一条のお屋敷に帰るしかないのだと言う。
「何かあったら、教えて。絶対、助けに行くから」
「うん…、ありがとう」
名家のご令嬢で、日本どころか世界にも通じる一条よりも名家の藤堂家に嫁いだ奏。その奏の手はアカギレだらけだった。私にできるのは、奏を愛してもいないのなら縛り付けるなと、怒鳴りこみに行くことくらいだ。
「奏、きっと大丈夫よ」
いつもの場所まで帰ったら、そこからは奏とお別れだ。東堂家の車が奏を迎えに来るから。そのまま一条のお屋敷へと連れていくらしい。
「私に、任せて」
幸いにして今日は平日の真昼間。今から奏の旦那である藤堂の社長のもとへ怒鳴りこみに行ける。門前払いを食らうのもわかりきっている、やり方は良くないけど、騒げば、もしかしたら会えるかもしれないから。
だけど、それは私の運命をも変えることとなる。
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