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「俺は、並行世界を、移動するたびに、お前を、死なせてしまった。何回も、何回も……お前を救うために移動を繰り返して、俺はもう、こんなに老けて……」
悠子は今にも泣き叫びそうになるのを、強く手で口をふさぐことで、耐えた。
今まで自分の危機を回避してきた行動はすべて、未来予知でもなんでもなく、久遠くんの、悠子を救えなかった回数分の再挑戦によるものだったのだ。一度ならず、何回も、何十回も、何百回も。
それこそ、二十数年分の。
「あの日、最初の……最初の〝死神〟の日、つまり、今日……それを、」
おじさんは指輪ケースを指差さした。
「それを、お前に、渡すつもりで……」
「もういいよ! もういいよ、久遠くん! ねえ、助けを呼ぼう?」
「だめ、だ……俺が生きたら、〝死神〟が、また……」
「死んじゃうよ、私いやだよ」
「この世界線の、俺が、今も、まちぼうけをしている。プロポーズをするために。だから、もう、行くんだ、行け……」
「やだ! いやだ! 私、どこにも行かないよ久遠くん」
「……」
「久遠くん……? 死んじゃいやだよ!」
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