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公園に到着すると、さっそくとばかりに男は手元のタバコを取り出して飲んだ。悠子は喫煙者を久しぶりに見た。
「ねえ、おじさん何者なんですか」
ここ最近悠子をつけ回っていたストーカーも、もしかしてこのおじさんだったのではないかと悠子は思い始めていた。
「俺は、そうだな」ふぅとおじさんは紫煙を吐き出す。「パラレル・エゴイストってところか」
「は?」
「並行世界は知っているだろう?」
「はぁ」
並行世界は、何かのタイミングの分岐によって生じる別世界のことで、トラックに衝突して悠子が死んでいた世界と、そうでない世界、前者がこの世界線にとっての並行世界ということになる。
つまり、並行世界は分岐点の数だけ無数に存在しているということだった。
「俺は並行世界を行き来できるから、誰かが死ななきゃならなかった世界を、できるだけ生かす世界へ連れて行くことにしている」
「それをどうやって信じろっていうんです?」
「信じなくてもけっこう。お前が俺を通報しても、その間に通報しない世界線に逃げられるしな」
「おじさんのやっていることは、人を危機から救うってこと?」
「ロマンチックな表現は好かん」
「それってエゴイストじゃなくてどっちかっていうと、救世主じゃあ……?」
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