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◇
『人の貸した教科書に落書きして返すとか、マジで恩を仇で返された気分なんですけど。ていうか何これ』
あれは、十二年前の四月。わたしが高校二年生だった頃。
不機嫌全開の顔で、自分の部屋からわたしは手元の携帯電話から秀和へそんなメールを送る。
隣のクラスだった秀和は忘れ物常習犯で、しょっちゅうわたしは彼にいろいろなものを貸していたのを覚えている。教科書やら辞書やら文房具やら。その日は確か現国だか数学だかの教科書を貸したはずだ。
その夜、宿題をするために開いたその教科書、まだ新学期が始まったばかりで新品同然だったそのぴかぴかのページの片隅に、死ぬほど下手な「棒人間」の絵が描かれていた。
数十ページにわたって。ちょっとずつポーズを変えて。
「え、もしかしてパラパラ漫画になってるとか……?」
完全に眉間にシワが寄った凶悪な表情になっているのを自覚しながら、わたしはページをぱらぱらとめくっていった。
わたしの手の中で、棒人間がギクシャクと走る。
「秀和の絵心、壊滅的すぎるでしょ……」
そして最後のページ。
転んでいるのか片膝をついているのか、という姿勢をとった棒人間の手には、謎の花丸がいくつもくっついていた。
意味がわからない。キースヘリングでも気取ったつもりなのだろうか。
とりあえず言い訳があるなら聞いてやる、と携帯電話を横目で睨みつつ、わたしはノートを広げて宿題を始める。勉強の時にいつも聞いていたラジオ番組を流しながら。
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