私だけの花、あなただけの花。

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 面白い物を見つけたの。  そう言って、私はお姉ちゃんの隣に座った。 「なあに?」 「万華鏡みたい」  日向ぼっこを特技と自慢するお姉ちゃんは、縁側に座らせると一幅の絵になるのだ。  周りに誰も居なくても、しゃんと伸びた背中と、見つめている物を教えて欲しくなるぐらい、ぶれずに前を向いた顔。  容姿にしろ、言動にしろ、私はいつも比べられる相手で、(けな)される側だった、と思う。どうあがいても勝てない相手。 「またお祖父さんの蔵に入ってきたの? 怒られなかった?」 「見つかるようなヘマしないし」 「悪い子~」  これは私の感想じゃ無いんだけど。光を零す長い髪や、瑞々しい肌が、確かな存在感を放っているのに、なかなかこっちを向いてくれないから、印象が定まらなくて、知りたくなり、どんどん近づいてしまうのだそう。  ……わかるような、わからないような。アイツが話す言葉は、いつも曖昧なんだ。 「その万華鏡を貸してくれるの?」  ワクワクとか、楽しみの感情を浮かべた顔をこっちに向けてくる。 「だめー。私が見つけたんだもん」 「意地悪な美海(みう)~」  時々、私はお姉ちゃんに意地悪をする。いつも負けている側からの仕返しのような気分で。  視力を失ったお姉ちゃんに、万華鏡を自慢するなんて、相当意地が悪いと思うけど。  でも、そんな私に、お姉ちゃんは怒ったり拗ねたりしなかった。心の広さが、魅力の差になっているんだとわかっていても、つい、甘えてしまうんだ。  万華鏡を覗き込む。 「んー、こんなのだっけ? 万華鏡って。綺麗なのは綺麗なんだけど」  しばらく私の方を向いていたお姉ちゃんが、おかしそうに笑った。 「回すのよ? ゆっくりね。回した分だけ花を咲かせてくれるから」 「回す……? うわっ! 何これ! 凄い、どんどん変わっていく」 「ね、私に教えて? その花の色を。目を通して見える景色を」  光の中の真実(けしき)。 「白い柔らかそうな丸がたくさん、  内側に集まって……  あ、爆発するみたいに赤の点が……  散った」 「今、美海の手の中で星が生まれたのよ。  まだ定まっていない真っ暗な宇宙の真ん中に。  美海だけの星が」 「どんどん色が変わってく。  緑色の(ふち)。  中心は派手な青の重なりだけど。  外には薄い緑が覆ってる」 「おめでとう。  その星は深い海を腕の中に湛えて、無数の草木を茂らせたわ。  これから美海が、光を増やしてあげるのよ?  いろんな花が咲くといいわね」 「緑が外側に転がって……  うあ、赤がどんどん増えてくよ。  深い赤に大人しい茶色が混じっていくの。  星みたいな形。  七つの角がはっきり映る」 「最初に生まれた命ね。  星の記憶を(かたど)った一輪の花みたい。  しっかりと大きく育ってくれるかしら?」 「青い星が見えた。  白い葉っぱをいっぱい付けた、青い星」 「太陽から遠く離れた冬の星。  お友達かな?  仲良くなれそう?」 「中心は赤が円を描いて……  黄色、紫。  また赤だ」 「お友達との間に新しい花が咲いたのね。  混じり合って、  色を重ねていく。  自由に咲き乱れるお花畑が、美海の星に広がるように」  私が口を閉ざせば、お姉ちゃんは再び空を仰いだ。  私には見えない夢を見る、横顔。 「ズルい」 「うん?」 「直接見ているのは私なのに、お姉ちゃんの方が綺麗な物を見てるの」  多分、周りから見たら私の方が幸せなんだろう。  でも、こうして二人でいると、想像する景色の違いに羨望を抱かないわけにはいかないのだ。
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