1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
面白い物を見つけたの。
そう言って、私はお姉ちゃんの隣に座った。
「なあに?」
「万華鏡みたい」
日向ぼっこを特技と自慢するお姉ちゃんは、縁側に座らせると一幅の絵になるのだ。
周りに誰も居なくても、しゃんと伸びた背中と、見つめている物を教えて欲しくなるぐらい、ぶれずに前を向いた顔。
容姿にしろ、言動にしろ、私はいつも比べられる相手で、貶される側だった、と思う。どうあがいても勝てない相手。
「またお祖父さんの蔵に入ってきたの? 怒られなかった?」
「見つかるようなヘマしないし」
「悪い子~」
これは私の感想じゃ無いんだけど。光を零す長い髪や、瑞々しい肌が、確かな存在感を放っているのに、なかなかこっちを向いてくれないから、印象が定まらなくて、知りたくなり、どんどん近づいてしまうのだそう。
……わかるような、わからないような。アイツが話す言葉は、いつも曖昧なんだ。
「その万華鏡を貸してくれるの?」
ワクワクとか、楽しみの感情を浮かべた顔をこっちに向けてくる。
「だめー。私が見つけたんだもん」
「意地悪な美海~」
時々、私はお姉ちゃんに意地悪をする。いつも負けている側からの仕返しのような気分で。
視力を失ったお姉ちゃんに、万華鏡を自慢するなんて、相当意地が悪いと思うけど。
でも、そんな私に、お姉ちゃんは怒ったり拗ねたりしなかった。心の広さが、魅力の差になっているんだとわかっていても、つい、甘えてしまうんだ。
万華鏡を覗き込む。
「んー、こんなのだっけ? 万華鏡って。綺麗なのは綺麗なんだけど」
しばらく私の方を向いていたお姉ちゃんが、おかしそうに笑った。
「回すのよ? ゆっくりね。回した分だけ花を咲かせてくれるから」
「回す……? うわっ! 何これ! 凄い、どんどん変わっていく」
「ね、私に教えて? その花の色を。目を通して見える景色を」
光の中の真実。
「白い柔らかそうな丸がたくさん、
内側に集まって……
あ、爆発するみたいに赤の点が……
散った」
「今、美海の手の中で星が生まれたのよ。
まだ定まっていない真っ暗な宇宙の真ん中に。
美海だけの星が」
「どんどん色が変わってく。
緑色の縁。
中心は派手な青の重なりだけど。
外には薄い緑が覆ってる」
「おめでとう。
その星は深い海を腕の中に湛えて、無数の草木を茂らせたわ。
これから美海が、光を増やしてあげるのよ?
いろんな花が咲くといいわね」
「緑が外側に転がって……
うあ、赤がどんどん増えてくよ。
深い赤に大人しい茶色が混じっていくの。
星みたいな形。
七つの角がはっきり映る」
「最初に生まれた命ね。
星の記憶を象った一輪の花みたい。
しっかりと大きく育ってくれるかしら?」
「青い星が見えた。
白い葉っぱをいっぱい付けた、青い星」
「太陽から遠く離れた冬の星。
お友達かな?
仲良くなれそう?」
「中心は赤が円を描いて……
黄色、紫。
また赤だ」
「お友達との間に新しい花が咲いたのね。
混じり合って、
色を重ねていく。
自由に咲き乱れるお花畑が、美海の星に広がるように」
私が口を閉ざせば、お姉ちゃんは再び空を仰いだ。
私には見えない夢を見る、横顔。
「ズルい」
「うん?」
「直接見ているのは私なのに、お姉ちゃんの方が綺麗な物を見てるの」
多分、周りから見たら私の方が幸せなんだろう。
でも、こうして二人でいると、想像する景色の違いに羨望を抱かないわけにはいかないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!