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私だけの花、あなただけの花。
初春、令月の空は和らぐ蕾の奥に控えて、薄く、遙かに伸びていた。
日差しが世界を焼くようになると、木々の緑は色を増し、真っ白な入道雲を呼び寄せる。雨は透明な水色だった。
雲を蹴散らす風が走ると季節は深まり、山は唐衣を纏い始める。
私の好きな頃。
白は気まぐれ。今年はどうかな?
続く季節を追いかけて、小さな蕾が開いていくのを、毎年飽きずに眺めてた。
目映い光が教えてくれる色は、決して間違ったりしない。
だから、私は真実を知っている。みんなと同じように、折々の景色に確かな形と色を認めて、同じように愛でるのだ。
それはきっと、視界に囚われ続ける幸せ。
疑いようのない幸せ。
それでも。
彼女が示す、夢想に映し出される数多の色に、私は憧れた。不定形で曖昧な、触れられない唯一の世界に。
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