きっと

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 促されるまま猫脚の椅子に腰かけると、男の子が軽い足取りでショーケースの後ろから何かを持って来る。彼が美萌咲(みもざ)の前の丸テーブルに置いたのは、そら豆形の銀の小皿だった。  その上には、サイコロみたいな2つのキューブが載っている。 「どうぞ召しあがれ」  笑顔で勧められ、美萌咲はまず乳白色のキューブに楊枝(ピック)を挿し、そっと口に入れた。  それは見た目どおり、バニラミルクの味だった。優しく甘やかされるような、どこか懐かしい味。ずっと舌の上に置いておきたいと思った瞬間、それは幸福感を残して淡雪のごとく消えてしまった。  名残惜しい気分で口にした茶色のキューブはビターチョコレート味で、喉から胸に染みるほど苦い。それなのに後味はすっきりと甘く、発表会を終えた日の夜に布団にくるまったみたいな、ホッと満ち足りた気分になった。 「美味しい……」  美萌咲が素直にそう呟くと、男の子は嬉しそうに目を細めた。 「他の味も全部、美味しいですよ! プレゼント用に、文字入れのサービスを始めました。アイスの棒に短いメッセージを刻印するんです。食べ終わったら全部読めるの、おもしろいでしょう?」  アイスの棒にメッセージ。それを聞いて、美萌咲の頭には、日に焼けた同級生(クラスメイト)沢渡(さわたり)の笑顔が浮かんだ。
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