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「一度ランドセルを置きに帰ってから遊びに行きなさいって言ってるでしょう!」
帰宅した沢渡は、夕飯の支度をしていた母親に玄関で捕まった。菜箸を持ったまま出てきた彼女は、泥だらけの運動靴を見ると目を三角にする。
「また学校指定靴のままサッカーしてきたのね! すぐボロボロになるからサッカー用のに履き替えてってーー 」
いつもの小言が始まりそうになった時、タイミングよく母親の携帯が鳴りだした。キッチンに戻る彼女の背中を追い越すようにして、沢渡はそそくさと自室に向かう。
「はいもしもし、あぁどうも、お世話になっておりますぅ」
どうして母親というものは、さっきまで怒っていたのに電話に出ると別人みたいになるんだろう。そう思いながら閉めようとしたドアの向こうから、「えっ!?」
という地声が聞こえた。
パート先でのトラブルか、PTAでの揉め事か。どちらにしても小学生には関係がないし、何より今はそれどころじゃない。
重いランドセルを床に置くと、沢渡はパステルブルーの紙袋を両手に持って、ベッドに座った。
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