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常夏の向こうへ
セーラー服の三角タイが、潮風にあおられてひらひらとはためく。目の前の雄大な海からにおいたつ磯の香りが鼻をツンと刺激し、瞳からまた涙がこぼれ落ちてきた。スカートの紺の色がぽたぽたと深くなる。
学校に行く気も起きなくて、さぼって海へやってきた。今日は曇り空、天気は微妙。
セーラー服を着た高校生風情の女が、平日の朝っぱらから浜辺で泣いているとなると、いろんな人たちからヘンな目で見られる。サーファー、ビキニのお姉さん、ポップな浮き輪をはめた子ども、色黒のお兄さん。そして――幸せそうな家族たち。
両親と手をつないで笑っている子を目の当たりにしたら、心に黒い染みが浮き出してきて、胸をかきむしりたくなる衝動に襲われた。
途切れることのない涙のカーテンで、人々が、海が、世界がにじむ。
どうしてなんだろう。
どうして、わたしのお父さんとお母さんだったんだろう。
二人は、二週間前に交通事故であっけなく逝った。一人っ子のわたしを遺して。
どうして、わたしだけその車に乗っていなかったんだろう。なんで、わたしだけが生き残っているんだろう。
悲しくて、哀しくて、やりきれない。
鼻水をすすったその時、きらりと輝く透明の瓶が海に運ばれてやってくるのが見えた。導かれるように立ち上がり、ひやりと冷たい海に足を浸して、それを手にしていた。
つかまえた瓶の中には、ハガキのようなものが入っていた。メッセージボトルだ。中の黄ばんだハガキには、こう書いてあった。
『この手紙を受け取ったあなたは幸運な人 哀しみのない常夏の国へ招待します』
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