5 ソフレ、それ以上の気持ち

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5 ソフレ、それ以上の気持ち

間宮と愛衣が知り合って、ソフレの契約をした日から何度も夜が廻った。 元彼と愛猫とお別れした日から、そろそろ半年が経過しようとしている。 間宮は本当にいつ部屋を訪ねても快く迎え入れてくれたので、愛衣は甘え過ぎている自覚もありつつ関係を続けていた。 日を増す毎に、質素な間宮の部屋には愛衣の私物が置かれて増えていった。間宮は嫌がる素振りも無く、賑やかになる室内に純粋に喜んでいるようであった。 それでも、間宮はソフレという関係性を守っていた。 簡単なスキンシップ以上の接触は避けていたし、キスだってしたことのない不思議な関係性。それでも愛衣は満たされていたが、間宮の気持ちの方が心配であった。 愛衣にはもう一ヶ月以上、間宮に秘密にしている事があった。 間宮との睡眠が刺激してくれたのか、一人寝が出来る程までに睡眠障害は改善していた。 自分の部屋に戻ってもちゃんと眠る事が出来ている。 間宮と一緒の時は、悟られないように先に寝落ちしないよう気を張っている様であった。 愛衣には自信が無かった。 自分が睡眠障害を抱えている事で生まれた二人のソフレ関係は、改善がバレてしまったら破綻してしまうものなのではないかと。 …そして、間宮に対してソフレみたいな割り切った感情ではなくなってしまっている自分の気持ちに対しても。知られてしまったら終わりだと、恐れていた。 ◇◇◇ 「愛衣ちゃん、考え事してる?」 泊まりが増えてから、ベッドの中でなくてもスキンシップは増えていた。 二人でソファーに座って映画を眺めながら、愛衣は肩を抱かれていた。 以前は緊張でドキドキしていたが、今は違う。愛衣は間宮に欲情する気持ちで鼓動が早まっている事実を、認めている。 すぐ近くにある間宮へ視線を向け、愛衣はそちらへ体重を預けた。 こんなに近くにいるのに、関係性は一番遠い。 「弦さん…の匂いを、どうしたら独占出来るか考えてました」 「ふ…本当に匂いが好きなんだねぇ」 楽しそうに笑う間宮は、指で愛衣の髪をくるくると弄って遊んでいる。 間宮の心音は落ち着いている。愛衣は悔しく感じていた。 大人の余裕? 惚れた方が負け? 何度も自分に言い聞かせた言葉が、脳で、心で反芻して煩い。 「…あと、どうしたら弦さんが私に夢中になってくれるかを、ずっと考えてます」 思わず口が滑って、愛衣は慌てて口元を抑えた。 けれど時既に遅し。間宮はきょとんとした表情の後、口元だけで笑って見せた。 「私はもうずっと前から愛衣ちゃんに夢中だけど? 君がもう、自力で眠れる事も私は気付いているし、一度寝入ったら朝まで起きないくらい熟睡なのも知ってる。 …さて、君が眠っている夜中…私は毎回トイレで過ごす時間があるんだけど、大人の女性の愛衣ちゃんなら、そろそろ察して頂けるかな?」 髪の毛先にキスをされて、間宮の言葉の意味を理解した愛衣は顔を真っ赤に染めた。その様子に間宮も破顔して、あわあわと震える愛衣の唇に触れるだけのキスを落とす。 「そろそろ“ヒュプノスの契約”を破棄して、“間宮弦(まみやゆづる)”という一人の男と寝てはくれないかな?」 涙が邪魔して上手く返事が出来ない愛衣は、言葉の代わりにキスで返事をした。優しく受け入れた間宮は、ロマンス映画を流しているテレビを消して、愛衣の身体を優しく抱き上げた。寝室まで運び、そっとベッドへ寝かせる。 キスを落としながら、 「頼むから、愛衣ちゃんは眠気を優先しないでくれよ?」 愛衣は苦笑しながら、 「眠りたくない、って思わせるのは弦さんだけだよ」 ー 二人の“初めて”の夜は、これから始まる ー
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