冷やし中華はじめました

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21XX年、私が子どもの頃に叫ばれ始めた多様性は、今ではすっかり普通となっていた。 「昼ごはんはどうしようか」 還暦も過ぎればランチに重いものは控えたい。そう思いながら、ふと中華料理屋の入口の貼り紙が目に入った。 『冷やし中華(各種)はじめました』 「冷やし中華か……。悪くない」 私はその中華料理屋の入口を開けた。 案内された席に座る。 目の前のメニューの束から季節限定メニューを取り出す。 望みの冷やし中華の項目を見る。 『冷やし中華(ゴマ) ゴマダレ派の方はこちら!』 『冷やし中華(酢醤油) 酢醤油派の方はこちら!』 「なかなか気が利くじゃないか」 そう言いながら、ページをめくる。 『冷やし中華(小盛り) 少食の方、どうぞ!』 『冷やし中華(大盛り) ガッツリ食べたい方におすすめ!』 『冷やし中華(特盛り) 大盛りの2倍量!満腹間違いなし!』 「うぅーむ……」 小さく唸って、更にページをめくる。 『超冷やし中華 仕上げに液体窒素で冷やしました!暑がりの方におすすめ!』 『やや冷やし中華 温めの温度で作りました!体が冷えるのが苦手な方、知覚過敏の方はぜひ!』 『激辛冷やし中華 辛党の皆様お待たせしました!唐辛子100本使用の特製スープ使用!』 『アレルギーフリー冷やし中華 小麦等のアレルギー品目を使っていません!』 『ロカボ冷やし中華 糖質が気になる方はこちらをどうぞ!』 『※なおこのページ記載の冷やし中華は、タレ、麺の量を自由に変更できます!』 「これが……多様性か」 そう小さく言葉をひねり出して私は辞書のように分厚いメニューを閉じた。 それを見た店員が私に近づく。 「ご注文は?」 「冷やし中華、酢醤油ダレで」 「承知しました」 ここでふと気になり、私は店員に質問した。 「これだけメニューがあるけど、一番人気のメニューって何?」 店員は少し苦い顔をして言った。 「烏龍茶、ですね」
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