【 第五話: 二人の星空旅行 】

1/1

24人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ

【 第五話: 二人の星空旅行 】

 俺たちは夕方近くまで海を満喫し、夕食はホテルの沖縄料理を堪能することになっていた。  俺はそこでもマジカにサプライズを用意していた。  それは、このホテルならではの人数限定の特別サービスで、ホテルの屋上で夕食が取れるというものだった。 「うわぁ~、屋上でヒロシと一緒にご飯食べれるなんて、うれしい~」 「ねぇ、すごいでしょ?」 「うん。ロマンチックな気分になっちゃう。すてき~」 「部屋はそれなりだったけど、この屋上での夕食は実は幸運にも限定5組を引き当てたんだ」 「そうなんだ~。私たちラッキーだね」 「うん、ついてるね」  食事が運ばれてきて、徐々に辺りが暗くなってくると、テーブルの上の明かりだけとなり、雰囲気もより一層増してきた。  そして、デザートを食べ終わる頃、周りの明かりが一斉に消えて、真っ暗になった――。 「きゃ、明かりが消えちゃった」 「うん。マジカ、ゆっくりと空を見てごらん」 「空を? うん、分かった……、うわぁ~、すご~い。きれい~」 「沖縄の空はきれいだろ?」 「うん、すご~く、きれい~。沢山のお星様が見える~」 「ほら、あそこ見てごらん。いくつもの星が川のようになっているところ」 「うわぁ~、すご~い。あれは何?」 「あれはね、天の川って言うんだよ」 「へぇ~、あれが天の川って言うんだ~。初めて見るけど、とってもきれい~」 「東京ではなかなかこんなきれいな星空なんて見えないから、一度、マジカをここに連れてきてあげたかったんだ」 「うふっ、ヒロシってやっぱりやさしいね」 「お金はかけられないけど、これが俺からの星空のプレゼント」 「うふふっ、今日のヒロシ、やけにロマンチストね。ありがとう」 「あはは、でも、こうして見ていると、何だか夜空と一体になっているみたいで、吸い込まれそうな気持ちにならない?」 「うん、なる。ヒロシと一緒に宇宙を旅しているみたいな気分になる」 「はは、宇宙を旅しているか、マジカもうまいこと言うね。ほんと、まさに宇宙を飛んでるみたいだね」 「ヒロシ、こんな素敵な星空旅行に連れてきてくれて、ありがとう」 「うん。マジカも一緒に来てくれてありがとう」 「うん……」  暗くて俺にはよく見えなかったが、マジカの声から、おそらくこの星空に感動して、マジカは目に涙を浮かべていたんだと思う。  俺もこんな綺麗な星空を今まで一度も見たことはなかった。  しばらく俺たちは時間を忘れて、その満天の星空を見つめていた。  そんなロマンチックな気分になったからではないとは思うが、その夜、部屋の小さなベッドでマジカはこう言った。 「私、小さなベッドの方がいいかも」 「狭いのに?」 「うん。だって、この星空の下で、ヒロシの一番近くで一緒に居られるから」  そう言うとマジカは、嬉しそうに俺の懐へ潜り込んできた。  マジカの髪からは、この美しい宮古島の夜のように、爽やかなシャンプーのいい香りが漂っていた――。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加