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「おばさん、桃花は出て来ましたか?」
トイレの蓋の上にうずくまっていたら、少し低い男の人の声がした。
わたしは驚いた勢いで背筋を伸ばす。まるでのろまな亀みたいに。そんなことしてもドアの向こうなんて見えないのに。
だけど、この声は……-
「明人君」
やっぱり明人だ!
わたしの心の声に答えるようにお母さんが呼んだ名前に思わず立ち上がりかけ、今いる島の小ささに気付く。危ない、落ちる所だった。だけじゃなく頭を壁にぶつける所をなんとかもちこたえる。セーフ。
「明人君、ここ、女性用よ?」
お母さんのびっくりした声にわたしも頷く。そうだよ、明人。ここ、女子トイレだよ。
すると声は落ち着いた音で、
「大丈夫ですよ。今はおばさんと桃花だけしかいないですし。もうみんな、チャペルに移動してますよ」
そう答える明人の様子が簡単に想像できるほど、いつもと変わらない色だった。
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