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第7話_蜘蛛の巣(R18)
翌日は週末だった。
蒼矢はいつものように大学へ向かった。
行きがけに烈宅を眺めながら通り過ぎたが、今日は表に出てくる様子はなかった。たまたまだったんだろうと、普段通り片道小一時間の距離を通う。
そしてひと通り講義を終える。その日は図書館に寄る用も特になかった。いつもより早めに帰宅できそうだと思いながら、正面門へと続く敷地内を歩く。
そして、もう少しで構外へ出るというところだった。
「よう」
「! 蔓田さん…」
視線を向けると、街路樹の脇に置かれたベンチに蔓田がゆったりと腰掛けていて、蒼矢へ向かって手をあげていた。
昨日結局遭遇しなかったこともあって、多分もう会うことはないだろうと蒼矢は思いかけていた。それが外れて必要以上に驚いてしまい、言葉が出せずに黙ったまま、近寄ってくる蔓田を見つめる。
「ちょっと聞きたいことがあってな。出口付近で待っていればそのうち来るだろうと思っていた」
「…聞きたいこと?」
「ああ。確かめたいことがある。図書館へ行くぞ」
「!! そういうことなら、同じ学部の友人にも聞ければ良いんじゃないかと思うので…今から連絡を」
「いや、急いでいる。お前だけでいい」
予防線を張ろうと思ったが、即失敗に終わる。
「…わかりました」
蔓田にきっぱり返されてしまった蒼矢はそれ以上言えず、諦めて二人で図書館へ向かうことになった。
前回と同じように、蒼矢が少し前を行き、蔓田がそのすぐ後をついていく形で歩く。
歩きながら、蒼矢はまた色々と自問していた。
蔓田の二日前のあの言動と、待ち伏せされたように遭遇した今日。
…考え過ぎだろうか。
そしてまたあの室内で二人きりになってしまうかもしれないことに、言いようもない不安感が湧きあがっていた。
…このまま部屋に入って大丈夫だろうか…今からでも断った方が良いんじゃないか…
「っ!」
うわの空になった蒼矢は、自分の足につまづいて少しよろめく。
そこへ、最良のタイミングで蔓田が蒼矢の両肩を背後から支えた。
「なんだ、大丈夫か?」
「!…はい、すみません」
掴まれた肩に置かれた蔓田の手のひらから伝わる体温が、温かいはずなのにぞくっとする感覚を覚える。
すぐに手は離れたが、全身に帯びる微かな震えは止まらなかった。
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