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第9話_孤独な闘い
「――やはり送ってきたか。想定内だ」
転異空間に送られた[蔓田]もとい[侵略者・蔓]は、変わらず落ち着いた様子で周囲を見渡す。そして少し離れたところに同じく転送された蒼矢…『セイバーアズライト』へ視線をやる。
戦闘スーツに身を包んだアズライトも、黙ったまま[蔓]へと静かな視線を送り続けていた。
「…アズライト、今からでも考えてやっていいぞ。俺に下れ。その身体の全てを俺に捧げろ」
アズライトは[蔓]の口上を聞き流すように手を胸の前にかかげ、短剣の装具『水面』を呼び出した。得物を逆手に強く握り、鋭い視線を向ける。
「断る」
「…愚かな」
[蔓]はにやりと歯列を見せた。
「五体揃って一体分のお前達が、単体でどこまで[俺たち]と対等にやり合えるか、手並み拝見といこうか」
[蔓]の言葉に呼応し、二人を取り囲むようにおびただしい数の大樹が地から生え出てきた。数日前公園に現れた、巨木の[異形]だった。あの[異形]を操る[侵略者]が、[蔓]だったということだ。
[蔓]はひと跳びでやや後退し、巨木のひとつの枝に腰掛ける。それ以外の巨木達は、無数の枝をしならせながら一斉にアズライトへ襲いかかった。アズライトは寸でのところで回避しつつ、標的を一本に絞って邪魔な枝を切り落としながら、弱点である洞に剣を突き刺していく。急所を貫かれた巨木は、地鳴りのするような悲鳴をあげ、その場に朽ち崩れていく。
飛び回りながら戦い続けるアズライトを眺めていた[蔓]は、軽く鼻を鳴らした。
「思ったよりやれるようだな。前情報がある分、いくらか有利だったか」
そう言うと、[蔓]は手近にあった太い枝をねじり折って降り立ち、その場で軽く跳躍したかと思うと、巨木の大群に囲まれたアズライトへ急接近する。
「!!」
ふいに乱入してきた[蔓]に虚を突かれたアズライトは、振りかぶられたその丸太に近しい太枝へ『水面』を何とか合わせるものの、受け止めきれずに弾かれた。そのまま十数メートル飛ばされる。
宙を舞い、着地点目がけて繰り出される枝の槍をバックステップで避けるが、全てはかわしきれず数本に身体を巻き取られ、空中から振りかぶられ、投げ落とされる。受け身の取れなかったアズライトは、勢いよく地に叩きつけられた。
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