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大学へ向かった全員が、速やかに葉月宅へ引きあげた。
蒼矢はすぐさま寝室のベッドに寝かされ、葉月が具合を診る。
「…少し青痣になっちゃってるところがあったけど、それ以外大した怪我はしてないみたいだね。熱が出てるから、目が覚めたら解熱剤を飲ませておくよ」
大体の処置を終え、たすきを解いた葉月は他三人のいる居間に戻り、状態を伝えた。
葉月のチェックが終わるまで無理やり待機させられていた陽が蒼矢の元へすっ飛んでいき、他の面々も後に続く。
「蒼兄…」
烈らが2階へ上がり寝室に入ると、陽は涙目になりながら、蒼矢のベッドにかじりついていた。
烈は部屋の入口から蒼矢の様子を伺う。陽が目にしないかと一瞬ぎくりとしたが、首と鎖骨にはきちんと包帯や医療テープが施されていて、ひそかに胸をなでおろした。
ふいに肩を軽く叩かれ、後ろを向くと葉月が視線で自分と影斗を呼んでいた。そのまま三人は寝室を離れ、階下へ降りる。
廊下を折れると、葉月は二人へ振り返った。たいていいつも穏やかな笑顔を見せている葉月が、下向き加減に険しい表情で腕を組む。
「…蒼矢なんだけど…ちょっと様子がおかしいんだ」
「具体的には?」
「…催淫薬みたいなものを、飲まされているかもしれない」
「……!」
その言葉に烈は目を見開くが、返す言葉がすぐには見つからない。
代わりに影斗が淡々と返す。
「あるだろ、あんな状態じゃ。…まだ切れてねぇのか?」
「うん…どういうものをどれだけ身体に入れたかわからないから、起きて聞けたら聞いてみるけど…」
「熱はそのせいか?」
「…多分。今日はうちに泊めるよ。一応、蒼矢の親御さんには僕から連絡しておくから」
「了解。ちょっと一服してくるわ」
葉月と影斗で話が進み、ひと通りその場が完結すると、影斗はさっさと離れていった。
二人の会話をただ黙って聞いているだけで終わった烈は、立ち位置から動けず、自分の足元を見つめていた。
葉月はうつむいたまま突っ立っている烈を見ると、その正面に立ち、彼の両肩をポンポンと叩いてあげた。
「…自分のせいだと思ってるなら、それは間違ってるよ。僕が蒼矢の相談を聞き出せなかったことにも一因があるし、あの子自身の油断もあった」
「葉月さん…」
顔を起こすと、葉月はいつもの笑顔で、でも目には力を込めて烈を見ていた。
起こってしまったものは仕方がないから、切り替えていくしかない。…次につなげればいい。
「…ありがとう。俺、帰ります」
「うん。何かあったら連絡するね」
「了解」
烈はいくらか持ち直したか表情を落ち着かせ、蒼矢と陽がいる部屋に戻る。
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