86人が本棚に入れています
本棚に追加
烈が寝室へ戻ると、陽は依然としてベッドのそばに座り込み、蒼矢を見守っていた。
「陽、帰るぞ」
「!? 俺今日泊まってくぞ! 帰らない!!」
烈の言葉に陽は勢いよく振り返り、がなり返した。
「馬鹿、迷惑だ。バイク乗っけてやるから、言うこと聞け」
「!!! っでも…俺メット持ってねーぞっ」
若干心が動いてしまったのか、陽はややうろたえながらもなおごねる。
「ああ、そういえばうちに確か一個あったよ。だいぶ前影斗が持ち帰るの面倒だからって置き去りにしてったやつ」
「…っ!」
そこへすかさず葉月が決め手の一言を繰り出し、陽は大人しく家に帰ることになった。
日が落ちてすっかり暗くなった境内を、烈と葉月が神社の玉砂利を踏みながらバイクに向かう。
「月兄、俺今日寝ないから! 絶対連絡してね!!」
既にタンデムシートに座っている陽が、葉月に向かって叫んでいた。
「わかったわかった。…烈、今日はお疲れ」
「葉月さん、すんませんいつも…助かります」
「あはは、お従兄ちゃん大変だねぇ」
「…蒼矢のこと、頼みます」
「うん、任せて」
二人を乗せたバイクが走り出し、薄闇に消えていく。
姿が見えなくなるまで見送った葉月は、玉砂利を戻って家の裏手の中庭へ向かう。
中庭に造られた縁側では、影斗がひとり煙草をふかしていた。
「帰ったか、あいつら」
葉月は影斗の隣に座る。
「…もっとしゃべっていけばいいのに。久し振りにこっちに帰って来たんだから」
「別に今更話題なんかねぇだろ。陽うるせーし」
影斗はレザージャケットの胸ポケットを探り、葉月の手元に差し出す。
「これ、返しといて」
「…ああ、無いと思った…。君が持ってたのか、ありがとう」
葉月は蒼矢の眼鏡を受け取ると、たもとに入れる。
「部屋用意してあるから。ご飯はどうする?」
「あー…悪い。今日はいいわ。もう出る」
「えっ」
そう言うと影斗は煙草を携帯灰皿に押し付け、立ち上がる。
「帰るのか?」
「いや、近くに泊まるわ」
「あてはあるの?」
「どこでもあるだろ。ネカフェでもいーし。とにかく、今日はここは駄目だ」
影斗が、葉月へ振り返った。
「…駄目だろ。自分でも何するかわかんねぇ」
「……」
向き直ってジャケットをはおり、影斗はバイクへ向かう。葉月は黙って、影斗の少し後をついていく。
バイクにまたがり、エンジンをかけると、影斗は何も言わずに走り出した。でも葉月には、フルフェイス越しに影斗から視線を送られたような気がしていた。
「…任されたよ」
バイクが見えなくなると、葉月は玄関へと戻っていった。
最初のコメントを投稿しよう!