第10話_爪痕残る身体

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(レツ)が寝室へ戻ると、(アキラ)は依然としてベッドのそばに座り込み、蒼矢(ソウヤ)を見守っていた。 「陽、帰るぞ」 「!? 俺今日泊まってくぞ! 帰らない!!」 烈の言葉に陽は勢いよく振り返り、がなり返した。 「馬鹿、迷惑だ。バイク乗っけてやるから、言うこと聞け」 「!!! っでも…俺メット持ってねーぞっ」 若干心が動いてしまったのか、陽はややうろたえながらもなおごねる。 「ああ、そういえばうちに確か一個あったよ。だいぶ前影斗(エイト)が持ち帰るの面倒だからって置き去りにしてったやつ」 「…っ!」 そこへすかさず葉月(ハヅキ)が決め手の一言を繰り出し、陽は大人しく家に帰ることになった。 日が落ちてすっかり暗くなった境内を、烈と葉月が神社の玉砂利を踏みながらバイクに向かう。 「(つき)兄、俺今日寝ないから! 絶対連絡してね!!」 既にタンデムシートに座っている陽が、葉月に向かって叫んでいた。 「わかったわかった。…烈、今日はお疲れ」 「葉月さん、すんませんいつも…助かります」 「あはは、お従兄ちゃん大変だねぇ」 「…蒼矢のこと、頼みます」 「うん、任せて」 二人を乗せたバイクが走り出し、薄闇に消えていく。 姿が見えなくなるまで見送った葉月は、玉砂利を戻って家の裏手の中庭へ向かう。 中庭に造られた縁側では、影斗がひとり煙草をふかしていた。 「帰ったか、あいつら」 葉月は影斗の隣に座る。 「…もっとしゃべっていけばいいのに。久し振りにこっちに帰って来たんだから」 「別に今更話題なんかねぇだろ。陽うるせーし」 影斗はレザージャケットの胸ポケットを探り、葉月の手元に差し出す。 「これ、返しといて」 「…ああ、無いと思った…。君が持ってたのか、ありがとう」 葉月は蒼矢の眼鏡を受け取ると、たもとに入れる。 「部屋用意してあるから。ご飯はどうする?」 「あー…悪い。今日はいいわ。もう出る」 「えっ」 そう言うと影斗は煙草を携帯灰皿に押し付け、立ち上がる。 「帰るのか?」 「いや、近くに泊まるわ」 「あてはあるの?」 「どこでもあるだろ。ネカフェでもいーし。とにかく、今日はここ(・・)は駄目だ」 影斗が、葉月へ振り返った。 「…駄目だろ。自分でも何するかわかんねぇ」 「……」 向き直ってジャケットをはおり、影斗はバイクへ向かう。葉月は黙って、影斗の少し後をついていく。 バイクにまたがり、エンジンをかけると、影斗は何も言わずに走り出した。でも葉月には、フルフェイス越しに影斗から視線を送られたような気がしていた。 「…任されたよ」 バイクが見えなくなると、葉月は玄関へと戻っていった。
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