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第11話_一夜明けて
次の日の早朝、蒼矢はようやく目を開ける。
昨日から結局一度も目覚めることがないまま、朝を迎えていた。
気付いてからまず、あまり見慣れない天井が視界に見えて、起き上がって周囲を見渡すと、なんとなく覚えのある景色だとわかる。胸元に視線を落とすと襦袢を着ていて、葉月の家だと確信した。
…戻って来れたんだ…
そう認識でき、なんとなく心が落ち着くと、直後に昨日のことが頭を駆け巡った。
「…っ……!!」
固く目を閉じ、記憶を頭の隅へ押しやると、ベッドから起き上がる。
ベッドのヘッドボードに置いてあった時計の日付を見ると、意識が途切れてから翌日になっていることがわかった。
立ち上がり、部屋の隅にある姿見の前に立つと葉月の寝室が背景に広がり、現実世界に戻って来た事実をはっきりと実感した。
そのまま、鏡に映る自分へと視線を移す。
「……」
首に巻かれた包帯に触れた。ゆっくりとほどいてみる。
赤黒い痣が数箇所、一晩明けてもまだくっきりと残っていた。
心臓がドクンと大きく鼓動し…蒼矢は姿見に背を向け、包帯を巻き直した。
「おはよう、蒼矢」
声のした方へ振り向くと、部屋の入口に葉月が立っていた。目が合うと彼はにっこりと笑い、蒼矢のものであろう着替えをベッドの端に置く。
「…葉月さん」
「気分はどう?」
「大丈夫…です」
「本当? 熱があったんだよ、昨日。もう下がったのかな?」
そう言うと葉月は、ごく普通の動きで蒼矢の額に触れようとする。蒼矢はその、自分に近付く彼の手に必要以上に反応してしまい、避けるように頭をそらす。
「あっと…」
「っ! …すみません」
「いや、こっちこそ急にごめんね。…熱測ってもいいかな?」
申し訳なさそうに目を伏せて小さく頷く蒼矢をベッドに座らせ、葉月は立膝をつく。下から伺うように手を伸ばし、蒼矢の額に優しく触れた。
「うん、大丈夫そうだね…良かった。朝ご飯用意できるけど、食べれる?」
「…葉月さん」
「うん?」
「俺…昨日…っ、すみません……すみませんでした…」
肩をこわばらせ、うつむいたままの蒼矢の膝に、葉月は優しく手を置いた。
「謝ることなんて何もないよ。…帰って来れて本当に良かった」
「…っ…」
「…昨日何があったか、話せる範囲でいいから教えてくれる?」
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