86人が本棚に入れています
本棚に追加
着替えて朝食を貰ってから、蒼矢は昨日から記憶が続く限りのことと、それまでにあった数日のことを葉月に話して聞かせた。もちろん、襲われた内容はほぼカットした。
葉月からは、[侵略者]から蒼矢の身体に入った異物についての所感を伝え、今後数日間は影響が残る可能性があるとも説明した。
「しばらくうちに泊まっておいた方がいいと思う。僕はほぼこの家から出ないから、安心して」
話が終わると、葉月は蒼矢を寝室に戻した。
「今日は一日安静にしてて。また寝ていればいいよ」
葉月の言う通り再び襦袢に着替えてベッドに寝そべり、蒼矢は目を閉じた。
「えっ、外出したいの?」
昼食の後、蒼矢が早速外出を申し出てきたので、さすがの葉月もやや冷静さを欠いたリアクションを返した。
「…眠ろうと思っても、目が冴えてしまって…」
「なるべく家にいて欲しいんだけど…まぁ、そうだよね。昨日から相当な時間眠ってたしね」
葉月は腕組みをしてしばらく思慮するが、蒼矢の気持ちも推し量って、許すことにする。
「ついでに買い物を頼もうかな。コンビニで済む用だから、ほんの少しの間だけだよ」
そう念押しされて外に出た蒼矢は、まずまっすぐ自宅へ向かう。葉月の用意した着替えが案の定着流しだったため、そのまま店へ入るのが少しためらわれたからだ。自宅の先にあるコンビニが葉月宅から一番近いため、コースとしてはほぼ問題無い。
自宅にはいつも通り誰もおらず、まっすぐ自室へ向かい、適当に上下を引っ張り出す…わけにはいかず、トップスだけは痣を考慮して、首まで隠れるものを選ぶ。
手早く着替え、解いた包帯をズボンのポケットにしまい込むと、即自宅を後にした。
コンビニで葉月に頼まれたものを買い、店を出る。
来た道をぽつぽつと戻っていたが、ゆっくりと立ち止まった。
――今回は諦めよう――
昨日意識が途切れる直前、断片的に残る記憶の中、[蔓]がそんな言葉を残した気がしていた。
もしまた単独で対峙しなければならないような状況になった場合、その時こそおそらくセイバーとしては最期になるだろうと考えていた。
圧倒的な基礎能力の差。あの体液が無くても、きっと顛末は同じだっただろう。
…『アズライト』の自分では、およそ敵う相手ではない。
「蒼矢?」
突っ立ったままぼんやり考えていると、正面に立つ黒いバイクジャケットを着た男から声をかけられた。
「…先輩」
影斗は蒼矢の姿にひどく驚いたようで、目を見開いて蒼矢を見ていたがすぐ上向きに視線を外し、息をつく。
「…お前ねぇ…何でこんなとこにいんの?」
「…買い物です」
「……」
真顔で返答する蒼矢に、影斗は呆れたような顔を見せる。
「…で、帰るの?」
「はい」
「じゃーちょっと付き合え」
「はい?」
眉をひそめる蒼矢の腕を引き、影斗は近くの喫茶店へ向かった。
「あの…葉月さんに頼まれてるので、早く帰りたいんですが」
「俺からあいつに連絡しとく。それで文句ねぇだろ?」
最初のコメントを投稿しよう!