第11話_一夜明けて

2/2
前へ
/58ページ
次へ
着替えて朝食を貰ってから、蒼矢(ソウヤ)は昨日から記憶が続く限りのことと、それまでにあった数日のことを葉月(ハヅキ)に話して聞かせた。もちろん、襲われた内容はほぼカットした。 葉月からは、[侵略者]から蒼矢の身体に入った異物についての所感を伝え、今後数日間は影響が残る可能性があるとも説明した。 「しばらくうちに泊まっておいた方がいいと思う。僕はほぼこの家から出ないから、安心して」 話が終わると、葉月は蒼矢を寝室に戻した。 「今日は一日安静にしてて。また寝ていればいいよ」 葉月の言う通り再び襦袢に着替えてベッドに寝そべり、蒼矢は目を閉じた。 「えっ、外出したいの?」 昼食の後、蒼矢が早速外出を申し出てきたので、さすがの葉月もやや冷静さを欠いたリアクションを返した。 「…眠ろうと思っても、目が冴えてしまって…」 「なるべく家にいて欲しいんだけど…まぁ、そうだよね。昨日から相当な時間眠ってたしね」 葉月は腕組みをしてしばらく思慮するが、蒼矢の気持ちも推し量って、許すことにする。 「ついでに買い物を頼もうかな。コンビニで済む用だから、ほんの少しの間だけだよ」 そう念押しされて外に出た蒼矢は、まずまっすぐ自宅へ向かう。葉月の用意した着替えが案の定着流しだったため、そのまま店へ入るのが少しためらわれたからだ。自宅の先にあるコンビニが葉月宅から一番近いため、コースとしてはほぼ問題無い。 自宅にはいつも通り誰もおらず、まっすぐ自室へ向かい、適当に上下を引っ張り出す…わけにはいかず、トップスだけは痣を考慮して、首まで隠れるものを選ぶ。 手早く着替え、解いた包帯をズボンのポケットにしまい込むと、即自宅を後にした。 コンビニで葉月に頼まれたものを買い、店を出る。 来た道をぽつぽつと戻っていたが、ゆっくりと立ち止まった。 ――今回は諦めよう―― 昨日意識が途切れる直前、断片的に残る記憶の中、[(カズラ)]がそんな言葉を残した気がしていた。 もしまた単独で対峙しなければならないような状況になった場合、その時こそおそらくセイバーとしては最期になるだろうと考えていた。 圧倒的な基礎能力の差。あの体液が無くても、きっと顛末は同じだっただろう。 …『アズライト』の自分では、およそ敵う相手ではない。 「蒼矢?」 突っ立ったままぼんやり考えていると、正面に立つ黒いバイクジャケットを着た男から声をかけられた。 「…先輩」 影斗(エイト)は蒼矢の姿にひどく驚いたようで、目を見開いて蒼矢を見ていたがすぐ上向きに視線を外し、息をつく。 「…お前ねぇ…何でこんなとこにいんの?」 「…買い物です」 「……」 真顔で返答する蒼矢に、影斗は呆れたような顔を見せる。 「…で、帰るの?」 「はい」 「じゃーちょっと付き合え」 「はい?」 眉をひそめる蒼矢の腕を引き、影斗は近くの喫茶店へ向かった。 「あの…葉月さんに頼まれてるので、早く帰りたいんですが」 「俺からあいつに連絡しとく。それで文句ねぇだろ?」
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

86人が本棚に入れています
本棚に追加