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第12話_傷つき合うふたり
蒼矢と影斗は出身高校が同じで、その頃から続いている間柄だ。
入学当初の蒼矢に影斗が目をつけて近付き、何かと構ったり追い回したりするようになるのだが、蒼矢もそれに気圧されつつも生真面目に付き合い続け、今の関係に至っている。
率直に言えば好意を寄せている。が、蒼矢には全く応える気が無く、影斗も展望があまり見えてないことを理解しているので無理強いはせず、『先輩・後輩』関係で今のところ落ち着いている。
当初、影斗自身はそっちの気は無いと思っていた。自他ともに認めるイケメンで、まとう雰囲気も華やかな影斗は、現に蒼矢に出会うまでの数年間彼女を切らしたことがなく、周囲にも『無類の女好き』で通っていた。その喰い荒しぶりは、彼女がいる裏で出張ホストやレンタル彼氏などにまで手を染めるほどだった。
それが、蒼矢と出会ってから先は人が変わったように彼一筋になっていった。女遊びはすっぱりやめ、昔の彼女からもらった数々のプレゼントも全て捨てた。とっかかりは蒼矢の"美人"と言っていい容姿だったものの、彼の内面にもすぐに惹かれ、今では蒼矢という人物そのものに惚れ込んでしまった。
でも、彼のその遊びが無く抱え込みやすい性格は、出会ってからこれまでに渡りずっと感じている、影斗にとって悩ましい美点でもあり欠点でもあったのだ。
若干無理やり蒼矢を店内に引っ張ってきて座らせ、影斗は葉月に電話するためレストルームの方へ消える。
数十秒で席へ戻ってくると、蒼矢の正面にどかっと腰かけた。
「身体の具合は? 昨日熱が出てるって葉月から聞いたけど」
「…少しだるいくらいです。熱は下がってます」
「怪我は?」
「背中と腰に何箇所か。今朝薬を飲んだので、触れなければ痛みません」
「なら良かった」
影斗は向かってきたウェイターに、二人分のコーヒーを頼む。
「…先輩」
「んー?」
「昨日…ありがとうございました。助けて下さって」
蒼矢の記憶にはおぼろげだが、『セイバーオニキス』である影斗が『転異空間』に入り込んで『アズライト』を連れ戻したと、葉月から聞かされていた。
素直に頭を下げる蒼矢を横目に、影斗は水の入ったグラスをいじり始める。
「んなこと言ったってお前、覚えてねぇんだろ~?」
「…すみません」
「謝んなって…冗談だよ。あんなの助けた内に入んねーだろ。あそこから[奴]を退けただけだ、なんの解決にもなってねぇよ…」
影斗は少し自嘲するように言う。
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